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74.ブレイブ ニュー ワールド 再び

無事に始業式を終えた4人は、再び地下街のブレイブ ニュー ワールドを訪れていた。


到着するとジョーンズが自分で迎えに出てきていた。案内されて宇宙船のような建物の中に入ると、いつかのような白い廊下を通り、あるドアの前で止まった、


「このプログラムは、望君に最初に作ってもらったものだが、ゲーム用ではなく、散歩やジョギングなどを楽しむために考えた。家族や友人と野外ピクニックをしたり、といった楽しみ方もできる」

 この春休みに一緒に仕事をしてから、望はすっかりジョーンズと打ち解けていた。最初の酷薄な印象はもう感じられない。仕事熱心で、すごく優秀な人だなあ、というのが望の印象だ。


 ドアが開くとそこは別世界だった。


「現在春に設定してありますが、四季からお好きな季節を選ぶことができます」どこかから女性の声が聞こえてきて、設定の変更法を説明してくれた。 


 確かにそこは春の空気が満ち溢れていた。桜のピンクと菜の花の黄色が続く丘の小道は緩やかに続いている。のんびり歩いていくと小高い丘の上に着いた。 丘の上からははるか遠くの山々、麓の森と、その間に見え隠れする小さな家が見える。少し離れた山の麓には輝く湖が見えた。

 昔なら田舎に行けば見られただろう風景かもしれないが、何かが違っていた。空の青も、木々の緑も、桜のピンクも、菜の花の黄色も、これまで見たものとは違う、と誰もが感じた。まるで、同じ景色を、写真で撮ったものと、天才と言われる画家がキャンパスに描いたものとが、全く違うように、心に響くものが違う。


「これは…ここから離れたくなくなりますね」 プリンスがほうっとため息をついた。望には世界がこんな風に見えているのだろうか、と思った。


「おい、あそこにいるのは鹿か?」 リーが目ざとく近くの木の陰から除く子鹿を見つけて近づいていく。逃げるかと思った子鹿は、興味深そうにリーを見ている。


「これ、撫でてもいいのか?」 リーの問にジョーンズが笑って頷いた。 恐る恐る手を出すリーにおとなしく撫でられる子鹿に、ミチルも近づいていく。


「おい、ミチルが近づくと逃げるから来るなよ」 リーが文句を言ってミチルと子鹿の間に体を置こうとするが、すっと躱され、その上撫でている手をどかされてしまう。


「おい、何するんだ」 一瞬の早業にあっさり子鹿を愛でる場所を取り上げられて文句を言うリー。


「大きい声を出さないでよ。この子がびっくりするじゃない。ほら、ごめんなさいね、リーがうるさくて」 ミチルは優しげにそう言って子鹿を撫で始めた。後ろで文句を言うリーは完全に無視だ。


「本物の鹿のような手触りね」 ミチルは本物の鹿を触ったことあるのかな? 感心しているミチルをみながら望は疑問に思っていた。 その時、キェーというような鳴き声がして、子鹿が慌てて声のする方へかけて行った。そちらを見ると、親鹿らしい大きな鹿がいた。


「お母さんが呼びに来ちゃったね」 がっかりしているミチルを見て、望が慰めるように言った。


「よく見ると、結構いろいろな動物がいますね、ここには」 とプリンスが辺りを見回しながら楽しそうに言った。 確かに、木々の間には、リスらしい小さな姿が見え隠れしているし、きれいな鳥もみられる。薄茶色のうさぎもいた。


「あの湖まで行ってみないか?」 リーに言われて、皆で森の中の道を、遠くに見える湖に向かってあるき始めた。

途中で見たことのない花に足を止めたりしたせいで、湖に着くまで一時間以上かかった。自転車を使うか、と言われたが誰も乗ったことがなかったので、今度練習してから、ということになった。リーはちょっと試したそうだったが。


「うわあ、本当に湖だ」 


「何驚いてるの?望が創ったんでしょ」 ミチルが呆れている。


「僕は景色をイメージして、入れただけだよ。本当にこんなに広い湖になるなんて思わなかった」

 近くで見ると湖はかなり大きくてずっと遠くの山の麓まである。小さな船まで浮かんでいる。


「その辺は、最新式のゲーム機用の部屋ですからね。このまま泳いでいただいても大丈夫ですよ」 ジョーンズが言うと、リーが早速泳ぎたそうにしたが、ミチルがテスト段階のプログラムで泳ぐ危険性について威圧を込めてリーに説明したため、諦めた。


「ジョーンズさん、イメージに何か不具合はありませんか?」 望があちこち見渡しながら訊いた。


「今の所完璧に作動しています。すでに試運転で何人かに試してもらいましたが、大変好評です」


「そうですね。私も今度は違う景色で楽しみたいと思いました」 プリンスが言うと、ミチルもリーも頷いた。


「既に、ジョギングのコースとして使うための定期予約がかなり入っていますし、もう少し大型の動物の出るプログラムも人気があって予約が殺到してますので、来週正式オープンしたら忙しくなると思います」


「俺も、予約しとくかな」 リーが言った。


「それは、もしかしたら必要ないかも」望がジョーンズを見ながら尋ねるように首を傾げた。


「ええ、何とかご希望に添えると思います。このタイプの部屋は設置に部屋のサイズの4倍ほどの大きさが必要になりますが、それが可能であれば、お譲りすることで、役員も承知しました」


「どうも有難うございます。これの企画を見た時、家にあったらいいなと思ったので、嬉しいです」


「プリンスの家に設置するのか?じゃ、俺も使えるな」


「プリンスの家と、マックの家にも欲しいと思って、2部屋購入することにしたんだ。これだったら、ゴーストも連れて散歩できるし」


「あの性悪猫のために?一体幾らかかったの?」 ミチルが呆れたように文句を言ったが、ゴーストは性悪猫なんかじゃないからね。


「別にゴーストのためだけってわけじゃないよ。ミチルも朝のランニングに使えるよ」


「しょうがないわね」  朝のランニングにここを走れる、と聞いてちょっと機嫌が治ったみたい。

顔が笑っている。 











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