71. ギリアン ジョーンズの来訪
「なんかマックって望のガーディアンエンジェルみたいだな。助けがいる時に現れる。死んで天使になったのかも」 リーが変な感心の仕方をしている。
「無責任に望にすべてを渡していっただけではなかったのですね。きちんとその危険性を把握してできる限りの対策をしていったようですから」 望にこんな危険な遺産を残して、と少しマックを恨めしく思っていたプリンスはマックを見直していた。
「ではハチのリストから選んで早速グリーンフーズのA&A進出を進めることにしましょうか?」 プリンスが確認をとるように望を見たので、望は頷いて、同意した。
「門の外にギリアン ジョーンズ氏が来ています。天宮様との面会を求めていますが、いかがいたしましょうか?」
翌日、日曜日で学校が休みなため、4人で一緒に望の果物で朝食をとり、改めてその多種多様な味に感心していると、プリンスの護衛から連絡が入った。
「何の用か訊いてください」 プリンスは望の方を伺って、望が全く心当たりがない、という表情をしているのを見て護衛に頼んだ。
「天宮様に直接お会いして、お詫びをしたいとのことです。会えるまで、帰らない、とおっしゃっています」 数分後、無感情な護衛の声がそう告げた。
「どうしますか、望? ジョーンズはプロビデンスを使って望の調査をしていました。データが消えて、調査をしていたことがばれたと知っているはずです。それで、ここに現れるということは、かなり図々しいタイプの人間でしょう。会う必要はないと思いますが」
「そうよ。こそこそ探ろうとしたのがうまくいかないからって正面から乗り込んでくるなんてどんな神経をしているのかしら? 私が追い返してあげるわ」
プリンスの言葉にミチルが強く同意して、今にも門に出て行きそうだ。
「う~ん、何の用事かわからないからね。本当に謝りたいだけだったら悪いし」 望はちらっと横に置いてあるカリの木を見た。カリは何も言わない。
「とりあえず会って用件だけ聞こうかな」望はそういうと不満そうなプリンスにお願いして護衛に連絡してもらった。
数分後、護衛に案内されたジョーンズが部屋に入ってきた。
「天宮君、会ってくれて有難う」ジョーンズは望を見るなりほっとしたように言った。望がいつかホロイメージで会った印象に比べて、疲れているが人間らしい表情で、酷薄な感じが薄れている。
「もう知っていると思うが、君がこの間のうちのトラブルを解決してくれてから、君に興味が出てしまって、少し調べさせてもらった。勝手なことをして、本当に申し訳ない。直接会ってお詫びをしたかったんだが、どうしても君に連絡が取れなくて、失礼だとは思ったが、こうして押しかけさせてもらった」
「連絡がとれなかった?」 ジョーンズはリーから望の連絡先を聞いていたのではなかっただろうか?
「ああ、なぜだか君の連絡先が私のLCからも消えていてね」
なるほど、ハチは徹底的にやるタイプのLCだった。
「なぜ僕のことを調べたりなさったのですか?」 マックの遺産は受け継いだが、ジョーンズのゲーム業界とは何の関係もないはずだ。いや、もしかしたらあるのかもしれないが、少なくとも望の知る限りゲーム会社などマックの企業グループにはなかったと思う。
「実は、君が直してくれたプログラムを見て、その素晴らしさに驚いたんだよ。できればうちのゲームプログラム作成に力を貸してもらえないかと思ったんだが、君は、いろいろと有名だからね、お願いしても無理じゃないかと、それでついちょっと君について調べさせてもらった。すまない」 そう言って頭を下げたジョーンズを、プリンスが冷たく見た。
「プロビデンスは”ちょっと”調べさせるような機関じゃないと思いますけれど」 あそこを使うには莫大な費用がかかる。
「どうせ望に弱みでもないかと思って探ったんだろ」 リーが言った。自分のせいで望が狙われたのかと思うと余計に腹立たしい。
「それは…すまない」ひたすら謝るジョーンズに望は、彼が本心から謝罪していると感じた。
「もう良いですよ。謝罪は受け取りました。僕は何とも思っていません。用件がそれだけでしたら…」
「それだけじゃないんだ。私は君のプログラムした風景に、心を惹かれた。それで、君の他の作品も調べてみたんだ。その中にあったあの木、あの木のイメージを見た時、何とも言えない気持ちになった。まるで、故郷に帰ったような。故郷なんて持たない私が、おかしいだろ? 涙が止まらなかった。こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。あの木はどこかにあるのか?もし君の創造なら、あれをゲームの世界に描いてみることを考えてくれないだろうか?」 別れを告げようとした望の言葉にかぶせるように慌ててジョーンズが言葉を紡いだ。
「お願いだ。私に払えるなら、いくらかかってもいい。あの世界を作ってくれないか?」