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67.アカの記憶

「アカなの?」


「どうした、望? その木が起きたのかい?」 亜望が興味深げに訊いた。


「起きたんなら何て木か訊いてみろよ」リーが言ったが、ミチルが呆れたようにリーを見て言った。


「5万年前って言ったら石器時代でしょ。その頃の人間が、もし木に名前をつけることがあったとしても、今の私達には意味もわからないでしょ」 リーが、恥ずかしそうな顔をしてそっぽを向いた。


「アカは前のこと、覚えてる? 種だった時のこと?」 


『アカは種の時は眠っていたからわからない』


「そうだよね」ちょっとがっかりしたが、無理もない、と望が頷いた。


『種になる前の木だったころのことは覚えてる』アカが続けた。

 アカの意識は今朝までと比べるとずいぶんはっきりしているようだ。


「そうなの?覚えていることを教えてくれる?」


『たくさん覚えている。アカは今は小さいけれど、前は凄く大きかった」ちょっと得意そうに聞こえる。


「そうなんだ。凄いね」 微笑ましく思った望が感心してあげると、嬉しそうに葉を揺らした。


『アカは違う場所から来たの。大きなアカがいた場所が、日が出なくなって大きいアカももうダメだから、こっちに種だけ送ってもらったの。もっと暖かいところに着くはずだったのにアカだけ寒いところについてしまったからお迎えがくるまで眠ることにしたの。お迎えが来たと思ったのに違ってたの。やっとお母さんにあえて嬉しい』


「えっ」 ということは、アカはマザーの世界から一緒に来たのだろうか。


「アカの元居たところってどんなところだったの?大きな特別な木がいた?」 望が顔色を変えてアカに訊いているのを見て、皆が黙って成り行きを見守っている。


『アカも大きな特別な木。でも、アカより大きい、特別な木がいた。その木がいつも助けてくれた。 お母さんのような人もいた。その人は特別な木をマザーと呼んでた。その木が種を幾つも助けて送り出してくれた』

 やはりアカは望の祖先と同郷らしい。


『お母さん。カリもぼんやり思い出した。カリはずーっと寝てたりしてないからあんまりはっきり覚えてないけど、カリもずーっと昔に種でどこか違うところから来た』カリが言った。


「カリもやっぱりそうなんだね」 カリについては意識の疎通やエネルギーの受け渡しのしやすさから、他の木とは違うと、もともと感じていたので、やっぱりそうか、と納得した。


 望は皆にアカとカリが言ったことを話した。信じてもらえないかと思ったが、誰も疑う者はなかった。


 「信じてくれるの?」


 「望が変なのは祖先が別次元から移住してきたからってわかっているから、一緒に種が送られてきても別に不思議じゃないでしょ。」ミチルが何でもないことのように言った。 というか、変って何?ミチルも同じはずなのに。


 「5万年前だったら、俺とか、プリンスだって望達と同じあちらのDNAが入ってる可能性があるよな?」 何か計算しながらリーが言った。  


 「そうですね。そうだと楽しいですね」 プリンスが言った。 楽しい、のかな?


 「ところで望、さっきの果物なのですが、まだ木に生っていますか?」プリンスが、思い切ったように訊いた。


 「うん。今日初めて採ったけど、まだしばらくは収穫できそうだよ」


 「少し見本をいただいて、調べて貰ってもかまいませんか?もしあの味で、栄養もあるなら、工場生産のものよりずっと美味しいですから」 人々の食生活が豊かになりますね、とプリンス。


 「勿論良いよ。栄養は多分大丈夫だと思う」


 「あの木の実から同じ果実ができますか?」


 「途中で、僕がやったように変更しなければ、同じものができると思うよ」 ラストドリームでの経験を思い出して、望が請け合った。


 「そりゃすごいな。あのままの味で増やせるなら、食の革命が起こせるぜ」 リーには征服とか革命とかから離れて欲しい。 


 「そこまでいくかどうかわかりませんが、新しい風を起こせることは間違いないでしょうね。まあ、検査してみてからですが」


 「あの味(安倍川もち)が市場で手に入るようになればわしも欲しい。流行ること間違いない」 黙って聞いていた、亜望が太鼓判を押した。


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