63.反撃開始? の前に腹ごしらえ
「反撃って、誰に?何を?」相手もわからないのに何をするのだろうかと、望が首をひねる。
「それは勿論これまでちょっかいを出してきた奴ら全員と、これから出しそうな奴らもついでに、な?」
リーがプリンスを見ながら言った。
「そうですね。わかっていただくためには徹底的にやる必要がありますから」 プリンスの笑顔が怖い。
「あんまり派手にやって却って望が危険な目に合わないように頼むわよ」 ミチルがため息をつきながら釘を刺した。
「お話中ですが、夕食の用意が整いました?」 執事姿のハチが言った。
「あっ、そうだった!」 望が大声を出したので、全員が望を見た。いつも食事は各部屋のオートシェフでそれぞれ勝手に食べるので、特に申し合わせをしていない限り、皆で一緒に食べることはない。しかし、今日は、祖父の訪問を知った望の希望で全員で夕食を摂ることになっていた。そのためにハチが手配をしてくれていた。
「一人増えたけど大丈夫だよね?」
「はい、リー様がお見えになった時点で、一人分増やしてございます」
「有難う」
「よかったらまず夕飯にしない?皆にも食べて欲しいと思って用意してもらったんだ」
「そういえば腹が減ったな。今日は昼飯も食べずに北京から直行したからな」
「そうですね。せっかく望が用意してくれたのですから、いただきましょうか」
「望じゃなくて、ハチが用意したんでしょ」とミチル。ハチだってシェフロボットにやらせただけだよ。材料は僕が用意したんだからね。
「ほう、何を食べさせてくれるのかね」と亜望。
皆がダイニングルームに行くと、テーブルの上には人数分の食器が置かれていた。中央には切っていない果物のようなものが盛られ、それぞれの白い皿には色とりどりの何かがきれいに切って並べられていた。 赤い色、オレンジ色、緑、紫と色合いが美しい。
「これは果物?見たことのない種類ばかりね」 ミチルが椅子にかけながら訊いた。
「おい、果物だけなのか?」一寸不満そうなリー。
中央のガラスの器から実を一つを手にとったプリンスは真剣な顔をして眺めている。
「望、これは望の木の実ですか? この間実をつけ始めたのは知っていましたが、もう収穫したのですか?」
「うん、今日が食べ頃なんだって。皆に初めての実を食べてもらいたいと思って」嬉しそうに言って皆に食べるように勧める。
「これが望が育てていた木から生ったのか」
「そうだよ、おじい様。僕もまだ食べてないんだけど、きっと美味しいよ」 何故か自信たっぷりな望を見て疑わしい目つきをするミチル。
「おい、これは何ていう果物なんだ? まるでバターをたっぷり入れたクロワッサンのような味だぜ」 早速オレンジ色のスライスを口に入れたリーが目を見開いている。
「これ、不思議な味。トーフみたいかしら?でももっと美味しい」 ミチルは紫色のスライスを食べている。唇が少し紫色になっている。
「これは…焼いてありますね」 皆の様子を見てからゆっくりと赤い色のスライスを口に入れ、咀嚼したプリンスは飲み込んでから、あきれたようにため息をついた。
「マックの家でごちそうになったステーキですね」
「わしのは、マンゴーだな。だが、さっぱりしていてべとつかないな」 亜望が黄色のスライスを食べてから感心したように言った。
「凄い!本当にあのステーキの味がする。噛んだ時のジューシーな感じまでそっくりだ」 ステーキと聞いて早速赤のスライスに飛びついたリーが大喜びだ。
「美味しい?良かった」 自分もオレンジ色のスライスを口に運びながら望が皆を見て嬉しそうに言った。
「ああ、天宮一族は皆グリーンサムの持ち主で、お前の祖母も母親もどんな枯れそうな植物も生き返らせることができるからな。望にもそれが受け継がれているんだろうな」
「いや、会長、これはグリーンサムっていうレベルじゃないと思うぜ」望が祖父の言葉に嬉しそうにしているのを見て、リーが呆れて言った。
「望はほとんどマンゴーの種からこれを育てたんだろ?なんでこんなに全く違う実がなるんだよ」
「それは僕があの子達を育てている時に、こんな実が良いなというのをお願いしたからだよ」 なんでも無いことのように望が言う。
「いやいやいや、それがおかしいだろう?」 リーが、おかしいと思うのは自分だけなのか、というように、周囲を見た。 ミチルはもはや諦めたように皿の上のスライスを食べている。プリンスは、さすが望ですね、とか言いながら黄色のスライスに挑戦している。
「リー君、これが天宮の血筋なんだよ。望にはそれが少し強く出てるようだがね」 亜望は何でも無いことのように受け入れて、緑色の何かに舌鼓を打っている。
「会長、それ、何ですか?」 リーは諦めて食べることに専念することにした。
「うん、これは、安倍川もち、だな? くっつかなくてさっぱりしとるがきな粉の味がする」 確かめるように望を見ながら亜望が言った。
「わかった? 前に誰かからお土産に戴いたんだけど、美味しかったから作ってみたんだ」
「作ってみたんだ、じゃないわよね、全く」 呆れたように言いながら、自分もそれに手を付けるミチル。
色々な種類の果実の味を当てながら食べた夕食は楽しくて、全員食べすぎてしまった。
「望、大変美味しい夕食を有難う。さあ、それではお腹も満足したことですし、あちらの部屋で、先程の相談の続きをいたしましょうか」 プリンスがそう言って、夕食会はお開きになった。