表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/295

61.祖父の訪問とプリンスの決意

「孫とミチルがお世話になっておるのに挨拶が遅れて申し訳ない。改めて有難うございます、プリンス オルロフ」 試験休みも最後の日になって、急に望の祖父である天宮亜望がプリンスの家を訪ねてきた。


「改まってどうされました? お二人がここに住んでいただける事になって一番喜んでいるのは私だとご存知でしょう? どうかおかけください」 プリンスが微笑みながら、言った。


「お祖父様、急にどうしたの? 何かあったの?」 Happy Death Coの会長である亜望は、実務をミチルの父親であるヤナギ社長に任せた後、本社の研究室でラストドリームの制作と、改良に取り組んでおり、滅多にそこからでかけることがなかった。ネオ東京に来たのも、望の知る限り、望の入学、進級の時ぐらいだ。その祖父が急にやって来たとあって、不安の方が先だってしまう。


「お母様?おばあ様?」段々と青褪めてくる望の顔色を見て慌てて否定する。


「みんな変わりないよ。おばあ様なんかものすごく元気で、最近家に居ないで旅行ばかりしてるくらいだよ」


「それはお祖父様が、研究ばかりしていてつまらないからでしょ」ホッとした望は、祖母の文句を思い出して苦言を呈しておく。祖父が苦笑いした。自覚はあるのだろう。


「今日お邪魔したのは、お前達がお世話になっているのに、ご挨拶もしていなかったのを思い出したのと、最近少し周りが煩いので、ご迷惑をおかけしているのではないか、ということも気になったのでな」 プリンスに向かって真面目な顔で問いかけた。


「私の方には迷惑などかかっていませんが、何かありましたか?」 祖父にコーヒーを勧めながらプリンスが注意深く訊いた。


「これといったことがあったわけではないんじゃが、うちのセキュリティから、最近になって網に引っかかるインベーダーの数が毎日3桁以上になっていると報告が上がっておってな。今の所コアへ侵入されてはいないはずだが、うちでもセキュリティをマックスにしているにもかかわらず、途中まで引っかからない奴も一定数いるので、かなりのところからちょっかいを出されているらしい」 軽い調子で言っているが、さすがの望にも ”かなりのところ”というのが、大企業か、政府機関だというのは想像がつく。


「僕のせいなのかな」落ち込んで呟く望の肩にプリンスが手を置いた。


「望のせいではありません。悪事を働くものこそが悪いので、狙われたからと、自分のせいだなんて思ってはいけません。望は、クレジットを狙って襲われた人に、クレジットを持っていたのが悪い、と言いますか?」 


「勿論それは襲う人が悪いけど」 そう言った望の後ろでミチルが(目立つように持ってるのも悪いかも)と小声で言ったのが聞こえて、またしゅんとしてしまう。


「それで、天宮会長としては、何か対策をとられるのでしょうか?私に出来ることがあれば、どんなことでも協力致します」 話の流れを変えようとプリンスが力強く言った。


「それは、大変心強いお言葉ですが、相手によっては貴方の立場上まずいのではありませんか?」 


「私の立場、というのは会社の立場、という意味でしょうか」 


「そうですね。グリーンフーズは世界有数の大企業だ。それだけに政府との付き合いも深いし、隙を狙っている企業も多いでしょうから。うちのように政治的なしがらみなど殆どない中小企業とは違う苦労もあるはずだ。ご迷惑はかけたくない」 祖父の言葉に望も頷いた。


「正直言うと、望が現状維持を発表してミスター ウォルターの事業を何も変更せずにそのまま運営していく姿勢を見せたことで、この騒ぎも段々と治まってくるもんだ、と楽観していたんだが、治まるどころかここにきて急にひどくなってきた。先日など、直接知り合いを介しての問い合わせ、という名の圧力をかけてきたところさえある。これは放っておいたらまずいことになるのではないかと、まあ、漸く気がついたわけだ。ここはひとまず、望を家に帰らせた方が良いのではないかと思ってね」


「圧力って、大丈夫なの、おじい様?」


「心配するようなことはない。うちの事業は小さいが、言ったように政治的しがらみがないし、他社との関係もそれほどない。需要が供給を上回っているしな」 おじい様は笑って望に請け合った。


「しかし、グリーンフーズはそうはいかんでしょう?こちらに望がいることで、不必要なご迷惑をかけるのは間違いない」 


「そう言った圧力をかけようとする者がいない、とは言い切れないでしょう。しかし、うちは多少の圧力をかけられて、どうにかなるような企業ではありませんよ」 プリンスがにこやかに言い返した。


「それは勿論そうだろうが、それでもいらん軋轢を生む必要はないと思うがなあ」 


「プリンス、僕もそう思うよ。僕がいることでみんなに迷惑をかけたくない。おじい様の言う通り、今は家に帰ろうと思う」 ミチルも頷いた。


「私は反対です。 京都よりネオ東京の方が安全ですし、この家は、失礼ながら天宮家の本宅よりも安全です。それに、最近望の周りがうるさくなったのは、私の責任でもあります」


「貴方の?」 祖父が望を見るが、望も首を傾げる。


「はい。お詫びしようと思っていたのですが...」 プリンスは、望が如何に植物と交流できるか、それをグリーンフーズの研究所に教えてしまったこと、研究所の所長が自分に黙って望に5万年以上前の種を送りつけ、望がそれを発芽させてしまったことなどを説明した。


「ですから、もし最近になって前より周囲が騒がしくなってきたとしたら、うちから情報が漏れた可能性が高いのです」


「望がそんなことを...それでは余計にここにいてはプリンスにご迷惑をかけることになりますな。最悪、グリーンフーズと望の板挟みになりかねん」 望のやったことについては、あまり驚いた様子もなく、連れて帰る決意が強まったようだ。


「いいえ。絶対にそんなことにはなりません。私は望がマックの遺産を受け取った時に、万が一グリーンフーズが、望と敵対するようなことがあったなら、自分は望の味方として、グリーンフーズを離れると、皆に宣言してあります。 私の祖父母は私の決心を良く知っていますし、絶対にそのようなことはしないし、させない、と約束してくれました。それでももし、そんなことがあるなら、私の気持ちは変わりません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ