58. 謎の種
「また増やしているの?」 ミチルがノックもなしに望の部屋に入ってくるなり、何かの種を手に持っている望を見て文句を言った。
「部屋に入る時はノックしてっていったのに」
「したわよ。返事がないから入っただけよ。それより、やっとみんなをあちこちに植えて落ち着いたと思ったら」 ミチルが呆れたとばかりに大きな大きなため息をついた。どんな幸せも裸足で逃げそうだ。
「変だな。聞こえなかったのかな?」
『ノックの音は致しませんでした』ハチが教えてくれた。
「やっぱりノックなんてしてないじゃないか!」
「そんなことより、なんでまた植木鉢を増やしているの?」 望の抗議を軽く無視してミチルが問い詰める。
「ハワイの研究所から珍しい種を送ってきたんだよ。昨日はリーに付き合ってできなかったから今日やろうと思って」ミチルの勢いに負けてつい言い訳をしてしまう。
「何だってそんな物を送ってくるわけ?珍しい種なら自分のところで育てれば良いじゃないの」 今日のミチルは何だか機嫌が悪い。
「この間のお礼にってせっかく送ってきてくれたのに、そのままにしておくわけにもいかないじゃないか」
「それは、お礼でもなんでもなくて、望を使おうと思ってるだけじゃないかしら?本当にお人好しなんだから」
「お人好しって、そんなことないよ。別に何かを頼まれたわけでもないし、本当に珍しい種で、研究所では芽が出なくて、何の種かわからないんだって。それで僕にくれたんだよ。もし、芽が出たらどんな植物か教えてほしいとはいわれたけど」
「研究所で芽が出ないって…やっぱりうまく使われてるだけね」 ミチルが呆れた口調で断言した。
「そんなことないっていうのに。何の種かわからないなんて僕も興味があるし、別に迷惑でもないしね」
「ふ~ん。望が良いんなら私の知ったことじゃないけど。でもまたその木を植える場所を探してあちこち行くのは当分遠慮したいわ」
「まだ芽が出るかどうかもわからないんだし、芽が出ても育つまでしばらくかかるから当分は大丈夫だよ」 望が受けあうがミチルは疑わしそうに望の手の中の種を見ている。
「それ、芽じゃないの?」望の手の中には小指の先程の赤い丸い種があるが、その中央から小さな緑色が見える。
「え、あっホントだ」 望が嬉しそうに指先で緑色の小さな芽に触れ、もう少し強めに力を流してあげると、芽は急にぐっと伸びて10センチ程になった。驚いて手をどける望を見て、ミチルがため息をついた。
「しばらくってどのくらいなの?」 皮肉っぽくいうミチルにちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
「びっくりしたよ。こんなに急に大きくなるのは初めてだね。プリンスに言って研究所に連絡してもらうよ」
「やっぱりうまく使われてるわね」