56.ホロデッキ?の修理をしました
「リーは何をしているの?」
「空を飛んでるわね」
「この最新型のホロデッキ内では重力の変更ができます。完全な無重力とはいかないのですが、微重力化によって空の散歩をしているような感じが味わえます」サイジョウが自慢気に言った。
りー達4人は背中に翼が生えていて、ゆっくりと空を翔んでいる。遥か彼方に雲に覆われた高い山が見える。
リーはまだ元気そうで、ぐったりした一人を片手で抱えて飛んでいるが、あとの2人はかなり疲れているようで、フラついている。地上は見渡す限り緑の森林のようだ。時折、大きな叫び声が聞こえる。そちらに目をやると、恐竜のようなものが地上を歩き回っている。
「プログラムの故障とおっしゃいましたが、終了条件は?」プリンスがコントロールパネルを見ながらサイジョウに訊いた。
「これは新型の微重力室を使った空を飛ぶ体験ができるプログラムで、空の上の城を攻めてきた敵を撃退し、更に敵の城を攻めて勝利する、というシナリオです。敵に勝利するか、予約した時間になると自動的に終了するはずが、プログラムの敵の強度に問題があったのか、なかなか突破できませんでした。それで、予約時間の2時間が経つまで様子を見ていたのですが、2時間経っても攻略が終わりませんでした」
「リーはもっと鍛えなきゃだめね」ミチルが馬鹿にしたように呟いた。
「その場合、タイムアウトで終了するはずが、なぜか終了しませんでした。それで、強制終了をしようとしたのですが、反応がなくて、修理班を呼んだわけです。しかしこれは最新式のプロトタイプで修理にはあと数時間かかると言われ、その旨をプレーヤーに知らせた所、天宮様をよんで欲しいとおっしゃいましてね」
「それじゃあ2時間以上も飛び続けているわけですか?」 望がスクリーンを見ながら心配そうに言った。
「まあ、実際は同じ場所にいるんですが、体感としては飛び続けていることになります。体が軽いので現実に長時間翔んだような疲労は無いとは思いますが」 サイジョウが言い訳するように言った。
「着陸はできないのかしら?」 ミチルが不思議そうに訊いた。
「それがプログラムが稼働中は勿論着陸できたのですが、飛行中にプログラムがフリーズしたため飛行状態のままで動きがとれないのです。申し上げましたように、微重力ですので泳いでいるより少ないほどの体力しか消耗していないはずですが」
「重力軽減装置を切ることはできませんか?」とプリンス。
「それはできますが、高さ10メートルある天井のかなり上にいるので、プログラムが稼働して足場のある位置までいかないと大怪我をする恐れがあります」 部屋の床などの配置がプログラムの進行に従って変わるように設定されているらしい。
「それで、僕は何をすればいいのでしょうか?」機械の修理はちょっと専門外、と思いながら望が訊いた。
「さあ、私どもにもライ様のおっしゃる意味がよくわからないので、直接お話しください」サイジョウはそう言って望にリンクを渡した。
「リー、聞こえる?僕だけど」
「やっときてくれたか、頼むよ」スクリーンの中のリーが辺りを見回しているが、こちらの姿は見えないようだ。
「今コントロールセンターにいるんだけど、僕は何をすればいいの?」
「お前なら、インターフェイスでこのプログラムの中に働きかけられるだろ?店の奴に言ってお前のインターフェイスをここのコントロールにつないでもらってくれ。それで、このプログラムを動かして、俺たちが敵の城に着陸して敵を倒してプログラムを終了するように書き直してくれよ。このタイプのプログラムがフリーズした場合、無理に直すより、終了までもっていった方が早いはずだからな。サミュエルなんかもうダメだって言ってるから、これ以上長く待てないんだよ」
「わかった。やってみるよ」 リーが言っていることをサイジョウに伝え、サイジョウがオーナーからの許可をとってくれたので、望のインターフェイスがプログラムに繋がれた。
『プログラムと繋がりました』 ハチの声と同時に望の頭の中にプログラムの概要が流れ込んできた。それを処理しながらストーリーを繋いでいく。
「ああ、これは...」サイジョウが思わず声を出した。
スクリーンの色彩がこれまでとは比べ物にならないくらい鮮やかになっている。山も、森も、空もまるで別世界のようだ。 空には翼竜が飛び始めた。やがてリーがどんどんと前に進み、あっというまに遠くに見えた山の頂上の城に到着し、いつの間にか手に持っていたビーム砲で城の塀を壊し、敵兵を蹴散らした。 スクリーンの中のリーが友人を地面に下ろし、城の上まで飛び上がると、ビーム砲で、城を半壊した。
その後、敵の大将らしい角のある種族が現れ、降参した。そのとたん、あたりの景色が消え、スクリーンの中は大きな白い部屋になり、壁のドアが開いた。




