54. 地下街でトラブル?
「望様、ギリアン ジョーンズ様からコールが入っておりますが、どうなさいますか?」執事モードのハチが訊いた。
家に帰ってひとしきりゴーストとカリのご機嫌をとって、漸く許された望は、ゴーストを膝に乗せ、カリを横に置いて、自室のソファに座ってくつろいでいた。ゴーストはまだちょっと怒っているようで、撫でてもそっぽを向いているが、少なくとも大人しく膝の上に座っているのだから、もうそろそろ許してくれるつもりだろう。
「ギリアン ジョーンズ? 聞いたことがないな。僕の知ってる人?」
「記録にある限り、初めてコール戴いた方です」じゃ知らない人だよね? それでも、僕のLCへコールできるということは、誰か知り合いの紹介のはずだ。仕事は入れていないから、おじい様ではないと思う。それに、もしおじい様なら、先に望に連絡をくれるはずだ。
「出るよ」とにかくどこから望のLCのコンタクトを手に入れたのか知りたい、と思って話してみることにした。
「かしこまりました」
執事姿のハチが消えて、高そうなスーツを着た30代に見える男性が現れた。北欧系だろうか。きれいにカットされた金髪に、薄いブルーの瞳が、少し酷薄な印象を与える。
「突然連絡して申し訳ない。失礼は承知しているが、緊急な用件でね」申し訳ない、と言いながら、全くそう思ってはいない口調だ。命令することに慣れた傲慢な態度にあまり好感が持てない。出るべきではなかったかもしれない。
「初めてお目にかかると思うのですが、誰かの紹介ですか?」 そうだとすると、紹介した人間からは何も聞いていない。
「リー ライという学生を知っているかい?君の友人だと言っているが」 意外な名前を聞いて思わず背筋を伸ばす。
「はい、彼は僕の友人ですが、彼が僕のコンタクトを貴方に教えたのですか?」 何故リーが直接連絡してこないのだろう。
「私は、地下街にブレイブ ニュー ワールドという店を経営しているんだが、ちょっとホロゲーム中に事故があってね、彼と、一緒に来た友人3人が困ったことになってるんだよ」
「事故?リーは大丈夫なんですか?」 青ざめて望が問い詰めるが、男は軽く手を振って望の心配をいなした。
「ああ、別に怪我をしてるわけじゃない。ただ、閉じ込められたんだよ」
「閉じ込められた?」 どうして? どこに?
「それで、彼が店の者に、君に連絡をとってくれと言うんだ。ゲームに入るときにLCを外しているんで、直接連絡をとれないからと、店の者に頼んできたんだが、店の者も君みたいな有名人に連絡するのはまずいんじゃないか、と私に連絡してきた」
「LCを外した?ゲームでそんなことするんですか?」望には信じられない。
「プログラムによっては現実感を出すためにLCをセキュリティに預ける人は多いよ」
「リーは僕にどうしろというんですか? プログラムの事故だったらお店で処理しますよね?」
「ああ勿論うちでも現在全力で修理にあたってる。ただ、かなり時間がかかりそうなんだ。ライ君がいうには、君ならすぐなおせるはずだから、君に来てくれるよう頼んでくれ、とのことなんだがね。正直私としてはこちらの問題だし、時間をかければ修理できるんで、部外者の君に頼むのは心苦しいんだがね」
本当になおせるのか、とちょっと疑わしそうに望を見ている。
「わかりました。すぐ伺います」
「そうかい。有難う。それじゃあライ君にはそう伝えるよ」 大して有難くもなさそうにそう言って、彼の姿が消え、執事のハチが現れた。
「おでかけですか?ミチル様とアレクサンドル様に連絡致します」
「うん、お願い」
結局地下街へ行くことになった。