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51.そのころハワイ島では

 望達がアフリカで子供たちの新居を探す旅をしている頃、ハワイ島の植物研究所では、望が手伝って芽を出した木々が順調に育っていた。


「おお、よしよし、今日も元気だなあ。また大きくなったじゃないか」 浅黒の厳つい顔をだらしなく崩して中庭に植えたドリアンの木に話しかけているのは所長のラキ ウィルソンだ。


「僕の木もすごく成長が早いですよ。いや、どうなっているんでしょうね」 隣で自分の木に水をやっている所員が言った。


「しかし、あれからも、ずうっと自分でやってみてますが新しい芽をだすことはできてないから、やっぱりあれはあの子の何らかの能力なんでしょうねえ。あの子が道筋をつけたあとは自分でも”気”が種に向かって流れていくのがわかったんですが」 黒髪、黒目の女性が自分の手を眺めながら言った。他の所員は自分の体から木に流れる”エネルギー”を感じる、と言っているが、彼女は”気”が流れている、と言い張っている。同じものではないか、というのが他の所員の意見だ。


「そうだな。人間のエネルギーを変換して植物に流せる、ということがわかっただけでもこれからの研究の道標にはなるが、できれば望君をもう少し調べさしてもらいたかったよ。解剖させろ、とは言わないからDNAくらいはなあ」ジン ウォンがぼやいた。


「駄目だよ。プリンスから絶対に天宮くんには迷惑をかけないように、興味も示さないように、と厳しく言われているからね。調べさせろなんていったら即刻シベリア辺りの研究所に配置換えされるぞ」 ウィルソン所長がきっぱりと言った。 望がどうやら木と意思の疎通ができるらしいことも含めて、絶対に口外しないようにとプリンスから念を押されている。


「あそこだけは勘弁。ツンドラの観察はもうごめんだよ」以前に一度シベリア研究所勤めの経験があるジョージが身震いしながら言った。


「それにしても、アレは一体何なんだ。超能力なんて非科学的なことまで思いたくなるな」 あきらめきれないようにジンが言った。


「超能力…」 誰かが呟いた。





「カリ、どうかしたの?」 ニューカイロへ向かうジェットの中でカリの鉢を膝に抱いていた望は、カリがちょっと慄えたような気がして、訊いた。


『わからないの。ちょっと嫌な感じがしたの』


「嫌な感じ?空の上だからね。酔ったかな?寒いかな?もうすぐ着くからね」 心配そうにカリの葉に触れ、力を流す望。


『大丈夫。カリ、空は好き。でももうちょっと撫でてて』 甘えるように言うカリを、望が喜んで撫で続ける。


「またエネルギーをあげてるの?ホントに甘いわね、カリには」ミチルがそんな一人と一本を見て呆れている。


「それにしても、カリは全然大きくならないな。人一倍望からエネルギーを貰ってるくせにどこにやってんだ?」 そういえばリーの木はもうアパートに入らなくなってバルコニーに置いてある。あれ以上大きくなったら、どこかに移さなくてはならないだろう。


『カリは小さいほうがいいの。お母さんとあちこち行くの』


「カリは特別賢いから、大きくなったら僕とこうして出かけられないってわかっているんだよね」 カリの葉っぱを撫で続けながら望が言った。


『そう、カリは賢いの。ハチより賢いの』


「えっ?」 望が葉を撫でる手を止めて思わずカリを見た。 なんでハチと比べているのだろう?


「どうかしましたか?」


「いや、カリがね、自分はハチより賢いっていうから、ちょっとびっくりしただけ」


「なんだそりゃ。さすがにそれはないんじゃねえ?ハチは最高級のLCだろ。比べるのはちょっとなあ、ハチが気を悪くするぞ」ちょっとリー、カリを傷つけるようなこと言わないでよ。望はそっとリーを睨んだ。


「リー様、有難うございます。しかし、私は子供の言うことは気にいたしませんので、どうかお気になさらずに」 ハチが横から口を出してくる。お気になさらずに、と言いながら微妙にイラついているような口ぶりだ。一体どういうプログラムをしてあるのだろう。


『カリは、ハチより賢い。ハチは、カリの言うこともわからないお馬鹿さん』 お馬鹿さん、って一体どこでそんな言葉覚えたの、カリ。


「ああ、そうか。カリ、ハチとお話しようとしたの?」


『そう。でもハチは馬鹿だからわからない』 なるほど。カリは僕とハチがインターフェイスで声に出さず会話をしているから、自分とも会話できると思ったんだな。


「う~ん、カリ、僕とハチは機械を通して話しているんだよ。だから、カリとハチは直接話せないけど、もし話したかったら僕を通せば話せると思うよ」 多分。


『機械? それならやっぱりカリの方が賢い。カリは直接お母さんとお話できる』 ちょっと得意そうにカリが言った。 


「カリは勿論とても賢いけど、ハチも別の意味で、とても賢いんだよ。カリと直接話せないのは、頭が悪いせいじゃなくて、そういうふうにできているからなんだよ」望はハチが機械であることをうまく説明できなくて苦笑いする。


「そうだね。世の中にはいろんな賢さがあるからね」 望が困っているのを見てプリンスが言った。





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