50. バオバブ
「バオバブ、だな?」とリー。
「そうだと思うけど、こんなに大きいのは見たことないわ」 ミチルが感心している。
「ずいぶん古い木ですね。どのくらいの年齢なのでしょう?」 とプリンス。確かに巨大な木だが、1枚も葉はなく、むき出しの幹と、ねじ曲がった枝が空に伸びている。一見、すでに枯れてしまっているか、あるいは木の化石のようにも見える。
「さあ、木と僕達では時間の感じ方が違うようだから、年齢を訊いてもわからないみたい」 種や根から再生していく木にとって年齢の意味さえ人間とは違う。
「もしかして、きみがマザーの言っていたこちらに飛ばされた仲間?マザーの世界から人間を移すときに力を貸してくれたという」 夢の中のマザーの言葉を思い出して訊いてみる。もしそうだとすると数万年前ということになるが。
『以前の私だよ。あの時も、もう寿命だったが、あちらから来たマザーの瞳に力を貰えたおかげで、あれから10回ほど生まれ変われた。その力もとっくに尽きて、もうすぐ終わりだと思ってたんだが、新しい瞳が生まれたと、かすかに感じたんで、待ってたよ。この頃新しい仲間がいるのを感じたんで、その子に頼んでみたんだよ』
「マザーの瞳に力を...それなら、僕にもできるかな?」 ちょっと考えた望は、老木の幹に手を当てた。
いつもカリ達にしているように体の中のエネルギーを静かに流し込んでいく。
「うっ」 新しい木に最初にエネルギーを与える時に感じる抵抗が全くなくて、それどころか、こちらが流し込む前に吸い込むようにエネルギーを奪っていく。体から力が抜けて思わず膝をついてしまった。
『お母さん!』そばに置いたカリが焦ったように言った。
「望、どうしたの?」 ミチルが慌てて望を木から引き離し、望と木の間に立った。
『ああ、すまない。力を奪いすぎてしまった。大丈夫かい? 今の私に貴方が触れると危ないと教えるべきだったね。もう力が付きかけていたから我慢できなかった...ああ、それにしても素晴らしい力だ。体中が生まれ変わったようだ』木の声が幾分元気になっている。
「おい、みてみろよ」 リーが老木の根元から伸びている細い枝を指さした。そこには緑色の葉が数枚、ついていた。巨大な木の全体も枯れた感じがなくなり、生きているのが感じられた。
「これで、もっと生きられる?」 ミチルに支えられて立ち上がりながら、望が訊いた。
『ああ、もう数回は生まれ変われそうだよ』
『お母さん、大丈夫? お婆ちゃん、お母さんにこんなことしてひどい』カリが老木に怒っている。
『ごめんよ。もう触っても大丈夫だよ』
「カリ、僕はもう平気だから。この木はね、マザーのお友達で、僕達にとっては恩人なんだよ」 望はそう言ってカリの葉を撫でた。葉がぷりぷり震え怒っている。