48. 自然保護地区を買い取りました
望はマックのリストにあった政治家の中から、プリンスの勧めに従って、ジョセフ バンター議員に連絡をとった。ハチを通じて直通の連絡経路を使ったため、すぐに連絡が取れ、望が誰かを言っただけで、要件を話すまでもなくどんなことでも協力する、と力強く言われた。本当にそれで良いのかな?
「わざわざ足を運んでいただいて、有難うございます」 ハンター議員の家まで行こうと言ったのだが、すぐに来ると言われて、本当に1時間もしないうち望達の滞在するホテルにやってきた。
まだ30代程に見えるが、バイオによると55歳である。プリンスの調べによると、かなりの実力者だという。黒光りした肌に、筋肉質な体は、政治家というより軍人のようだ。ドアの外には彼の護衛が数人立っているが、彼らと比べても遜色ない体格である。
「ミスターウォルターの跡継ぎのニュースは勿論聞いておりました。ぜひ一度お会いしたかったので、こちらこそアフリカまで来ていただいて、有難うございます。まだ学生の方、とは聞いていましたが、本当にお若いですね」 彼は望の若さに驚いているようだが、決してそれでこちらを侮る様子は見せなかった。さすがはマックが信頼しても良いと言い残したことはある、と密かに感心する。
バンター議員に自然保護区の売却の真偽を尋ねると、財政難から売却が決まっているが、地元民の反対が激しいので彼らを刺激することを恐れて売却が終わるまで極秘扱いになっている、という。 調べてもはっきりとわからなかったのはそのためだったようだ。
望は、あの自然保護区を通過したときに、売却されて自然がなくなるという噂を聞いたので、もしできればなんとかしたいと思って連絡したと説明した。
「僕が購入できれば、あそこはあのままに保護しますし、それを約束した購入契約をしますから、何とかならないでしょうか?」 プリンスにアドバイスされた通りに、自然を保護し続ける事をまず約束する。
ハンター議員は極秘情報を誰が流したのだろうか、としきりに訊いてきたが、望は情報源は言えないとやんわり断った。(アカシアの木が言ってた、なんて言ったら、話を聞いてもらえなくなるからね)
「私を始め、過半数の議員は売却には消極的なのですが、地元の財政難もわかっているので、せめて自然を残しての観光業をするような企業に買取をして欲しいと買取先を探しています。しかし、他の議員がすでに大手のボリショイと繋がっていて、他の中小企業では太刀打ちできません。ミスターウォルターがいらっしゃればなあ、と他の連中とも話していたところだったのです」
彼はマックがこれまでアフリカの多くの自然保護区を救ってきたことを知っているので、マックの後継者に選ばれた望を信用してくれたらしく、もし望がここを買い取ってくれるなら、他の議員にも声をかけて望の購入を援護すると約束してくれた。
ただそれには、最低ボリショイが提示している価格を提示しなくてはならない。それさえできれば、殆どの議員が、自然を破壊しない契約をするという望への売却に賛成するに違いないという。
それからは、プリンスが交渉にあたってくれたこともあり、価格の取り決めもスムースに行った。 ボリショイより少し高い価格を提示したことと、自然保護の契約が功を奏し、翌日には、非公式に過半数の議員の同意を得ることが出来た。 後はマックのリストにあった彼の持つ地元企業の法律顧問団に任せ、再びアカシアの木の元を訪れた。
「もう大丈夫だよ。ここはこのまま、焼かれたりしないから心配しないでね」
『ああ、有難うよ。あんたに会えて、本当に嬉しいよ』
「僕も嬉しい。それでね、僕が育てている木があって、その子達のうち3本がここを気にいったみたいなんだ。この近くに植えてあげようと思うんだけど、良いかな?」 そうなのだ。望の木が2本、プリンスの木も1本、ここがすっかり気に入ってしまった。
『勿論構わないけれど、ここはあまり水がないよ。その子達は大丈夫なのかね?』
「多分なんとかなると思う。紹介するね」 望は積んできた植木鉢をアカシアの木の根元に並べた。
『…なるほど、特別な子達だね。良いだろう。ここからあっちの方角に少し行くと、小さい湧き水があるから、その辺りに植えておやり。 動物もよく来るけど、あの水場で暴れる連中はいないから大丈夫だろう。あの辺は大きな木もないから日当たりも良いしね』 優しい声になって、アカシアが言った。どうやらこの子達が気に入ったらしい。
「有難う。そうするよ。何かあったらこの子達が僕に連絡をくれるから、貴方も何か困ったことがあったらこの子達に言って下さいね」
ここからはじまる望と木の世界征服? いやそれはありません。