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46. 草原での出会い

「これが全部グリーンフーズの建物?」 思わずぽかんと口を開けて、思い切りミチルに肘でつつかれた。

 しかし望が驚いても誰も責められない、と思う。 


 ジェットから降りた望達が見たのは、かなりのサイズの都会だった。 グリーンフーズは何処?と訊いた望にプリンスがここから見える全てがグリーンフーズだと言ったのだ。街の中心に大きく開けられた広場に着陸したジェットから出てきた望達をかなりの人が珍らしげに見ていた。


「研究所はプレトリアにあるから、ここには工場と従業員用の町しかないので、あまり見るところも無く、殆ど外からの来客はないので珍らしがられるのですよ。」プリンスが苦笑気味に言った。



「これこそ昔のアフリカだな」リーが満足そうに外を眺めて言った。


 グリーンフーズの街での大歓迎を何とかやり過ごし、漸く街(その名もグリーンタウン)を離れた一行は、陸水空対応車でサバンナに向かっていた。走行指示はハチが出している。

 町というより都会としか思えないグリーンタウンを離れしばらく走り、漸くまばらにアカシアの木が見られる草原地帯に入った。ところどころに村のような建物は見えたが、自然保護区域に入ってからはそれもなくなり、遠くにキリンの群れさえ見え始めた。


「あっ、ハチ、ちょっと止めて」望がハチに指示し、車が止まった。 後ろからついてきていた護衛の車も急停車している。


「どうしたのよ、急に。草原ネズミでも引きそうになったとかいうんじゃないでしょうね」 急に止まったために望の膝から飛び出しかけたカリの植木鉢をつかんで、ミチルが文句を言った。


「ごめん。なんだか呼ばれたような気がして」 言いながら望は車から降りた。


「待ちなさい。勝手に降りたら危ないでしょ」 ミチルがカリを車に置いて、慌てて望の後を追う。リーとプリンスも続いて車を降り、護衛の数人がプリンスの周囲を囲んだ。


「君かい、僕を呼んだのは?」 一際大きいアカシアの木を見上げて、望が訊いた。


『ああ、やっぱり来てくれた。待っていた。もうすぐ待てなくなるところじゃった。その前に会えてよかった』 大きいが、年取った木のようだ。声に力がない。


「僕を待っていたの?」 カリのようなことを言っている。何か関係があるのだろうか?


『ああ、私達と話せる人間が来ると聞いて待っておった』一体どこからそんな話を聞いたのだろうか?


「そんなことを誰から聞いたの?」


『誰から?風から。雲から。雨から。そんなことより、我々は助けが必要じゃ。さもなくばここに住む我々はもうすぐいなくなってしまうのじゃ』


「いなくなってしまう?どうして?」


『人間がもうすぐここを焼き払いに来る。他のところのように我々をすべて焼いて、白い石で覆ってしまう』


「そんなはずないよ。ここは自然を保護するよう決められていて、植物を焼いたり、建物を建てたりはできないことになっているんだよ」


「望、この木はなんて言っているのですか?」 望の焦った様子をみて、プリンスが訊いた。


「もうすぐ人間がここを焼き払って、白い石で覆ってしまうって。でも、そんなはずないよね?ここは自然保護地区なんだから」 


「確かにここは自然保護地区ですが...少し待ってください」 プリンスはそういうと自分のLCに向かって早口で幾つか質問をした。その答えを聞いて顔をしかめると、望に向かって気の毒そうに言った。


「この保護地区を民間に払い下げ、開発しようという動きがあります。もしかしたらもう決定しているかもしれません。それにしてもどうしてそんなことがこの木にわかるのでしょう?」 


『人間たちがたくさん来て、ここに作る建物の相談をしておったのじゃ』 望がアカシアの言葉を伝えた。


「本当にそんなにはっきりと人間の言葉がわかるの?」 ミチルが疑わしそうに言った。


「アカシアの木は葉っぱを食べられると、葉っぱに毒を入れるだけじゃ無くて他の木に敵が来ている事を知らせるというのは昔から知られているしな。人間の言葉ぐらいわかっても驚かないぜ」とリー。


「とにかく、それが本当なら、僕達で何とかできないかな? 何なら僕がここを買い取って今のままにしておくとか」 買い取るためのクレジットならあるはず、と望が言った。


「そうですね。単に財力の問題であれば、買い取ることは可能だと思いますが、この地域は政治的に大変複雑ですから、財力だけでは片付かないかもしれません」


「そんな、じゃあどうすればいいんだろ?」 


「そりあえず、事実かどうか確認して、もし買い取れるものなら買い取り、何か政治的な駆け引きが必要ならば、私がおじい様達に相談してみましょう」 望の心配そうな顔をみて、プリンスが言った。


「それでは、プリンスのおじい様達に迷惑をかけてしまうんじゃない?」 プリンスが頼めば無理をしてくれるのはわかっている。それだけにあまり迷惑をかけたくない。


 アフリカ地区は、元の国としての意識が根強く残っていて地域紛争もあるため、どの企業も防衛には力を入れており、中には私設軍隊並みの軍事力を持つ企業もある。企業は地域紛争には関わらないが、自社の防衛に武力を使う事は許されている。そのため、変に交渉がこじれると武力衝突まであることは知られている。プリンスはご両親を政治的な争いで亡くしている。そのことを知っている望はプリンスを政治的争いに巻き込みたくなかった。


「事実関係だけを調べて、その後どうすればよいか考えてみるよ」


 事実を調べて、明日にでも又来ると約束して、アカシアと別れ、今日の目的地であるKAZAまで移動することにした。



『望様、ミスターウォルターからのメッセージの一つが再生可能になりましたが、ご覧になりますか?』その夜、KAZAのホテルで考え込んでいた望に、ハチが言った。

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