41. 望の決意 2
マザーのはるか昔の記憶の中に、パートナーと旅する様々な世界があった。いまではもう朧げな夢のような記憶だった。望はその朧気な記憶をたどって見たこともない星の景色を描き、少しずつホロイメージにストックしている。
いつか全く違う世界のプログラムをしてみようか、と考えてもいた。
だが、望の心に最も残っているのは、異世界の景色よりも、パートナーと旅する楽しさ、心の通じ合う相手といる満足感だった。望には愛する家族も、大切にしたい友人もいるが、人間である彼らとの交流とは違う、充足感があった。
最近、カリが成長してきて、時々マザーとの交流ができるようになって、時折、その感覚を味わう。
瑞樹おじさんと、宇宙旅行と植物の話をしているとき、心の通じ会える木が一緒にいて、好きな食べ物も賄ってもらえれば長い旅行も楽しめるのではないか、と思った。
木々に意識があるのは知られているが、まだ木と意思の疎通をする、ということは一般的にはできていない。もし、人間と植物が意思を通じ合うことができたら、人間はもっと満たされるのではないだろうか。
マックのラストドリームで見た世界には、マザーの瞳と呼ばれる木と意思を通じ会える人間がいたが、その他にも多くの人々がある程度植物と意思を通じ合っていた。あの世界が平和だったのはその事が大きいのではないだろうか、と望は思った。植物は概して穏やかである。危険な植物もあるが、ほとんどは動かずに耐え忍ぶ事を選んでいる種だ。彼らとの交流は人間に良い影響をもたらしたと思う。
「僕はこちらでもマザーの瞳になれるかな?」
『望様、それは私へのご質問ですか?』 ハチが訊いた。
「そういうわけじゃないけど、ハチが答えてくれてもいいよ」苦笑してハチに言う。
『では、僭越ながら、このハチがお答えいたします』 僭越ながらってどこでそんな言葉遣い習ってくるの、ハチは。
『望様のこれまでのお話ですと、望様が、マザーの瞳、と呼ばれた別次元での木の代弁者であったわけです。これにつきましては、望様が、育てている木々と言葉を交わしていらっしゃることから、こちらでもその能力をお持ちであることは既に証明されています。つまり、既にマザーの瞳になっている、と言えるかと思います』
「それはそうかもしれないけれど、この世界では、そんなことを信じてくれる人は殆どいないから、ほんとうの意味でのマザーの瞳にはなれていないよ」
『ほんとうの意味とはどういうことでしょうか?』 ハチが器用に不可解である、という感情を載せて質問してきた。本当に器用なLCだ。
「本当の意味でのマザーの瞳は、木々の代弁者として、人類に話を聞いてもらえなくてはいけないんだ。ただ、木の心がわかるだけでは、木々と人間との架け橋にはなれないからね。僕には何の実績もないから、僕がこの木はこう言っている、と言っても誰も信じてくれないだろ?」
『望様のご友人と、先日の植物研究所の方々の多くは信じておられたようですが』
「そうだね。プリンス達は僕と一緒に木を育てているから、特にプリンスは木の感情が感じ取れるしね。あの研究所の人達ももともと植物に特別な思い入れがあるから、信じやすかったんじゃないかな」
『それでは、もう少し多くの方に植物に興味を持っていただければ、望様を信じる方が増えて、望様はこちらの世界でのマザーの瞳となれる、ということですね』
「う~ん、そう簡単じゃないような気がするけどね。なにしろ、少なくとも連邦は、異端を排除する傾向にあるから、木が話してる、などという人間はそのうち精神科受診を強制されかねないよ」
「でも、そうだね、少しずつ植物と人間が話し合えるようにしていきたいな。それに、もっと植物達のことを知るために僕も植物学をとろうかな」決められなかった将来に少し方向性が見えてきたようだ。
「ハチ、有難う。ハチのおかげで道が見えてきたよ」
『どういたしまして』




