40. 望の決意
「ああ、疲れた」 望は祖父の家にある自室に戻ると礼服の上着だけを脱いでベッドに倒れこんだ。
今迄会ったこともない人達に、自分が幼いころに会ったと言って挨拶をされても返答に困ってしまう。何と答えて良いかわからない望に、勝手に昔話を始めるので、本当に疲れた。
「すいませんが、覚えてません」と言いたかったが何だか偉そうな人ばかりでそれもためらってしまった。
また会えて嬉しかったのは瑞樹おじさんくらいだ。数少ない天宮家の親戚だが、かなり遠い親戚で、会ったのはついこの間が初めてだった。優しそうな人で、100歳で仕事をやめさせられた部下のために心を痛めていた。今は以前に受けた予約以外の仕事は入れていないのだが、お祖父様に話だけでも聞いてあげるように頼まれた。初めは本当に話だけ聞くつもりだったのが、話しているうちに、安楽死を望んでいる元部下を心配する瑞樹おじさんの気持ちに共感してしまい、10年分の作成を引き受けた。その後、その元部下の研究者と会ったが、あんまり元気がないので、心配になる瑞樹おじさんの気持ちがよくわかった。しかし、一旦タイムトラベルの実現について話し出すと止まらなくなり、これがいわゆる「研究バカ」というものか、などと思ってしまった。理論はわかりにくかったが、彼がタイムトラベルが可能であると心から信じていることはよくわかった。資金と時間さえあれば、と悔しそうだった。望にできることは夢を見せてあげることだけだが、目的をなくしてただ死んでいくのは悲しいので、少しはお役に立てたと思う。
瑞樹おじさんは、タイムトラベルの研究にはかかわっていなくて、宇宙開発が専門だそうで、お話を聞いていると本当に興味深くて楽しかった。
彼の話の中に長い宇宙旅行のために最適な植物の話が出た。その話がマザーの記憶を呼び起こし、望の中に今まで気が付かなかった感情を目覚めさせた。




