32. ハワイ島の研究所
その土曜日、プリンスに連れられて望、ミチル、リーはグリーンフーズの植物研究所があるハワイ島に来ていた。島の半分近くがグリーンフーズの研究所になっているとのことで、敷地内にはありとあらゆる植物が茂っている。
「すごいね。こんな大きな島の半分も使っているの?」 ハワイ島はハワイ諸島で一番大きな島で、ネオ東京の約5倍ある。
「半分といっても殆どの部分はキラウエア火山の側にある発電所と、エネルギー研究所が使っているから、植物研究所はほんの一部です。エネルギー研究所は地下数キロを掘り下げてマグマの誘導とマグマ発電を行っていて、ここでの活動はそちらがメインで、私もそちらは何度か行ったことがありますが、植物研はよく知りません」
エネルギー研究所のおかげで、ハワイ島には昔のような火山の被害はない、とプリンスが説明してくれた。
「プリンス オルロフ、いらっしゃいませ。お久しぶりです」 白いユニフォームを着た浅黒い肌の男性が平屋の白い建物の入り口で待っていた。
「ミスター ウィルソン、お邪魔します。 友人の望 天宮、ミチル 柳、リー ライです。 望、所長のラキ ウィルソン氏です」
「前にも言いましたが、プリンスという敬称は必要ありませんので。もしおじいさま達との混乱を防ぐためでしたら、どうかアレクサンドルとお呼び下さい」
望達が挨拶を済ますと、プリンスがウィルソン氏に文句を言った。望達もいつもプリンスと呼んでいるので、ギクッとしたが、まあ、自分たちのはニックネームみたいなものだから、と自分を納得させる。
「かしこまりました、アレクサンドル様。 それで、そちらが会長からお話の合った木ですか?」 ウィルソン氏はそんなことはどうでも良いとばかりにプリンスの護衛の一人が抱えている植木鉢を奪い取ろうとした。護衛は慌てて植木鉢を守ると、プリンスを見た。
「そうですが、一寸待ってください。 大切な木なので、先に研究所の他の植物がどのように扱われているか見せて戴きたいのです。どのような研究をされているのか、この木に悪影響がないのかを確認させていただきたいと思います」
「わかりました。ご存知のように当研究所ではグリーンフーズの生産する食物ラインのうち、穀物、野菜、果物について工場生産ではなく、昔のように植物からの生産を行うことを目指しています。勿論、それだけでしたら現在も高級食材として栽培されておりますが、我々が目指しているのは、誰もが買える程度の価格でそれを栽培することです。それを昔のような無理な遺伝子操作をせずに、人体にも、植物にも害のない方法で量産することです」
「それは理解しています。ある程度の成果もあげていらっしゃると聞いています。そして多分、この木のような生育方法が成功すれば、こちらの研究に貢献できると思います。ですから今回のお話に協力させていただこうかと考えたのですが、この子にどんなことをされるのかを知りたいと思います」
プリンスが『この子』といって桃の木に触れたので、ウィルソン氏が驚いている。葉が少し揺れて、望には木が喜んでいるのがわかった。
「私達は決して植物を傷つけません。むしろ、どうしたら快適に育つかを常に考えています」 ウィルソン氏が胸を張って言った。




