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6. 夏休みになりました

望と3人の仲間がアンダー(A&A)に向かいます。 猫も一緒です。

6. アンダーへ



西暦2452年 7月1日 10:00


 ネオ東京メトロポリス




 夏季休暇の1日目、何故かウォン先生の引率によるクラブ活動という名目で望、プリンス、ミチル、リー、それにゴーストを加えて総勢5人と1匹は、ネオ東京をプリンスの家のジェットで出発した。


 旅行の目的はアンダーに住む原住民の言葉の研究、ということになっている。


 ウォン先生は祖父の李氏とうまが合ったらしく、李氏の家に1週間ほど滞在する予定だ。 


「時々は様子を見に来るからあまりはめをはずさないように頼むよ」と、主にリーに注意していた。


 マックは迎えのジェットを寄越すと言ってくれたが、プリンスの12人の曾祖父母、祖父母達がどうしても承知しなかった。


 プリンスがいやがるので一緒にはいないが、後ろから別機で護衛隊がついて来ている。


「望、どうしました?何か心配ごとでも?」


 プリンスが望の顔を覗き込んだ。望の方が今はひとつ年上なのに、プリンスはいつまでも保護者のようにふるまうなあ、と少し不満に思う望だが、年下の心配を快く受け入れるのもまたお兄さんらしい対応だ、と自分を納得させ、微笑んで返答する。


「何でもないよ。昨夜古い友人が訪ねてきてつい話し込んでしまったものだから、少し寝不足みたい」


「じゃあ横になって少しでも眠っておいたほうがいいですよ」


「そうさせてもらおうかな」




 望はシートを倒して目を閉じた。


 昨夜の事を思い出すと気持ちが沈むのをプリンスに知られて、心配をかけたくなかった。



「サバス、本当に久しぶりだね!何年ぶりだろう」


「突然ごめん」


「構わないよ。連絡してくれて嬉しいんだから」


 2才上のサバスは京都にある天宮家本宅の近くに住んでいた。


 子供のころはよく家の庭へ他の子供たちを連れてやってきた。


 近所の子供たちの大将だったサバスは、大人しくてミチル以外の子供と遊んだ事のなかった望にとっては、初めてできた友達だった。


 彼の父親はエンジニアだが、サバスが適正テストで医者になることが決まったのを大変喜んでいた。子供のころ、自分が医者になりたかったが、適正テストでエンジニアにならざるを得なかったのが残念だったらしい。


「メディカルスクールはどう?」


「すごく充実している。やはりバーチュアルクラスとは違って緊張するけど」


 しばらく京都の話をしてから、サパスが居住まいを正した。


「望、僕は君に嘘はつきたくない。僕の話を聞いてくれないか?」


「サバス、どうしたの?」


「僕に弟がいるのは知ってるよね?」


「ああ、リカルドだったよね。今何歳だっけ?」


「今年で7歳になる。君には言ってなかったけれど、リカルドは適正テストで適正なしと判定されたんだ」


「適正なし?」


 望は自分がいわゆる特権階級に属しているらしい、ということは知っていた。 多分その一番下だろうが。


 だから適正テストを気にかけたことはなかった。


 テストは受けたが結果すら覚えていない。


 祖父も何も言わなかった。望は言葉も遅かったし、きっとあんまり良い結果ではなかったのだろう。


 それでも入学する学校は決まっていたし、将来の事を決める必要はなかったのだ。 望の学校の生徒たちは皆そうだ。


 しかし、殆どの市民にとって5才時に受ける適正テストは一生を決めるテストだ。適正に合わせてカリキュラムが組まれるし、途中でよほどの事がない限り、職業も決まる。後は成績によってどの企業に入れるかが問題になるだけだ。


「適正なしと判定されるとまともな仕事に就くことは難しい。僻地で機械と一緒に労働するような仕事しかない。スクールカリキュラムだって初歩だけで、これといった職業に繋がる科目がないんだ」


「自分でもっと役に立つ科目をとるわけにはいかないの?」


「職業がどんなに細かく専門化しているか、君だって知っているだろう?科目が多すぎて適正がわからなければ何を学んでいいかわかりっこない。第一どの企業も雇ってはくれない」


「何とか他に方法はないの?」


「リカルドは少し成長が遅かっただけで、今ならきっといい結果が出ると思うが、適正テストの受けなおしは非常に難しいんだ。3ヶ月前、僕たちは知り合いの医師にここ1年リカルドの成長が著しいことを書いてもらって再テストの要請をした」


「それで?」望の直感がいやな感じに働き始めていた。


「先週政府の役人から僕に連絡があった。僕と君が親しかったと知っていて、君からある事を聞き出してくれれば、リカルドの再テストを認める、と言われた」


「ある事?」政府が関心を持ちそうなことで、思い当たる事はひとつしかない。


「君がアンダーのマックス ウォルターに会ったというのは本当か、ということをまず確かめてくれるよう頼まれた。ウォルターがまだ生存しているのかどうかは連邦情報局内でもはっきりしていないらしい。もし君が本当にウォルターに会ったのなら、何のためか、もしウォルターが自殺予定なら、それが何時なのか、とにかくどのような情報でもいいから聞き出せ、ということだ」


 望はためらった。もしウォルターなど知らない、と言ったら嘘をつくことになる。 しかし、返事ができないということはマックに会った事を認めるのに等しい。


 こうしてためらっていることが、既に答えなのだ。


 望は意を決した。


「サバス、僕も君に嘘をつくのはいやだ。だから何とも返事できないよ。もっと力になれればいいんだけど」


 返事ができないということは会ったということを認めるのに等しい。


「有難う。それで十分だ。僕は最初すぐに断ろうかと考えたんだが、リカルドの一生がかかっているし、とにかく君にすべてを話してみようと考え直したんだ。政府が君を探っている事を知らせておいた方がいいとも思ったしね」



 サバスは望に感謝して帰って行ったが、望は自分のせいで昔の友人にまで情報局の手が伸びた事や、 5才で将来を否定されたリカルドを思って昨夜はよく眠れなかった。




短いので、続けて第2章投稿します。

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