28.引っ越し
「ここに?」 望が驚いてポカンとする。
「ええ、望は家を探しているでしょう?」
「どうしてわかったの?」まだミチルにさえ話してないのに。
「それは、あの部屋の様子を見れば誰でもわかるわよ」とミチル。
「だよな。とりあえずしばらく俺の部屋に泊まりに来た方が良いと言おうと思ってたんだぜ」リーまで同意する。
「でも困ったわね。プリンスの家に泊めてもらえば安全の面でも安心だけれど、私は家の者に望から目を離さないように言われているのよ。望がもう少し広い部屋に引っ越さなければならないのはわかっているけれど、この地域では私が部屋を用意するのは難しいわね。せっかくですけれど、望にはやはりもう少し手の届く地域に借りて引っ越ししてもらわないと」
「確かに、一人暮らしの条件がミチルの目の届くところにいることなので、この地域は難しいかな」 同じ年のミチルに守役をされているのはなんとも恥ずかしいのだが、子供の頃からの習慣なので、すでに慣れている。
「それなら、ミチルも一緒にここに住めば良いですよ。部屋はたくさんありますし、おじい様達も望達なら喜んでくれます」
「私も?」ミチルが驚きながらも考えている。
「本当にご迷惑ではないかしら?」しばらくしてミチルが聞いた。
「迷惑なら誘いませんよ。たまにおじい様達が訪ねてくる以外、私だけなので、来てくれたら嬉しいです」
「プリンスだけって、こんな大きな家だし、護衛に、執事とかもいるんじゃないか?」 リーが首を傾げた。
「護衛は通常家の中にはいません。家の中のことはブラクが采配を振るっているので住み込みの使用人はいません」
「そうなんだ。僕もてっきり誰か人間が管理をしているのかと思ってた。ブラクはすごいね」
『望様。私にも可能です』何故かハチが割り込んできた。
(わかってるよ、ハチ。でもブラクもすごいのは確かだからね)
望が妙なライバル意識をもったらしいハチを宥めているうちにミチルとプリンスの間で話が纏まっている。誰も望の意見をきてくれないらしい。
「それでは、取り敢えず明日から、望がどこか適当なところをみつけるまで、お世話になりますね」ミチルがプリンスにそう言って、望の新居が決まった。