21.連邦へ
「じゃあ、カリを通じて異次元にいる謎の生物とコミュニケーションできるってことか。すごいな、望」
リビングに戻ってきて、何があったか説明すると、リーに感心されてしまった。
「僕は何もしてないからべつにすごくないからね。謎の生物って…マザーはすごくきれいな樹なんだ。なんだか怪しい生物みたいに言わないでよ」
「望からラストドリームの世界の話を聞いたとき、異次元の世界、という話に半信半疑でしたが、本当に存在するのかもしれませんね」プリンス、疑ってたんだ…プリンスの言葉にショックを受けてしまう。
「あ、いえ、そんな世界があって、望が経験したことは勿論信じていたのですが、もしかしたら既に失われたこの世界の記憶かもしれないな、と思いました。なんと言っても次元を超えるには莫大なエネルギーがいると言われていますから」プリンスが慌てて望に言い訳する。
「それで、その樹は望と連絡をとって何をしたいの?」ミチルが望に訊いた。
「その樹って、マザーって呼んでよ。すべての木の親で、特別な木なんだから」望がミチルに文句を言うが、ミチルは片手を振って望の言い分を無視すると、顔をしかめて望を睨んだ。
「別に何かしてくれっていわれたわけじゃないよ。すくなくともまだ」
「まだ?じゃあこれから何か頼まれそうなの?」ミチルのしかめっ面がひどくなっている。シワになるよ、ミチル。
「それはわからないけど、あちらには今マザーと話せる人間がいなくて、マザーは困っているみたいだった。でも今はまだカリが小さいから長くは話せないって言ってた。もう少しカリが育ったら、詳しくわかると思うんだけど」
「それであの木の芽が急に育ったってわけなのね。あれはマザーの仕業ね」
「仕業って」どうもミチルはマザーに警戒心があるようだ。望のことを心配しているからだろうが。
「まあ、あんまり先の事を心配してもしょうがないよな。あのちびちゃんが大きくなるにはしばらくかかるだろ?それはその時に心配することにして、今はこちらの心配事をかたずけようぜ」リーが現実的だ。
「そうですね。宇宙開発事業と、砂漠開発事業についてはざっとですが、見せてもらいました。望の決断は正しいと思います。あれらの事業をどちらの政府に渡しても、世界のバランスに大きな影響を与えるでしょう。なにより、あの事業は人類に大きく貢献することが可能です」
プリンスは、成功する事業とは人類に貢献する事業である、との信念を持っている。その観点からみても、殊に砂漠開発事業は、オーストラリア大陸の砂漠化を防ぎ、緑化を進めている、大変意義のある事業だ。あれだけでも、連邦でのマックの評価は間違っていると思えた。
「私は、望がマックの後継になったことは、人類の未来にとって幸運なことだと思います」
「人類の未来?」何だかプリンスの期待が重い。
「プリンス、僕にもマックの凄さはわかってきたけど、僕がどうするべきかはまだわからないんだ。とりあえず、現状維持、でいいんだよね?」マックの組織力は素晴らしく、現状維持であれば殆ど望がすることはない。
「そうですね。監査システムは必要ですが、それはハチが把握していると思います。しばらく現状維持するのであれば、問題なさそうですね」
「有難う。僕一人ではどうしていいかわからなかったよ」プリンスのお墨付きをもらってほっとした。
「じゃ、予定通り明日は連邦に帰るってことで、良いのね?」ミチルが念を押す。
「そんなに急がなくてもいいじゃないか。もう少しこちらで探索していこうぜ」リーが文句を言う。
「何言ってるのよ。学校を休んできてるのを、忘れたの?」
「折角特例で休みを貰ったのに、そんなに急がなくても」言いかけたリーは、ミチルに睨まれて、口を噤んだ。
「そうだね。皆にも学校を休ませてごめんね。明日帰るよ。また休みの日にでも来ることにする」とりあえず連邦に帰って祖父にも報告した方がいいだろう。