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20.マザーより

「・・・・誰?」 望は誰かに呼ばれたような気がして、目を開けた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。辺りは真っ暗で、何も見えない。


(カリを部屋に持って来て、少し横になろうと思ったんだっけ…そのまま寝てしまったのかなあ。皆はどうしたろう)


『のぞむ』 頭に直接響くような声が聞こえた。どこか懐かしい響きだ。


「誰?カリ?」 望は体を起こして辺りを見回したが、やはり何も見えない。


「ライト 50%」 あたりが眩しくない程度に明るくなった。自分の部屋だと思ったそこは、何故か草原だった。見渡す限りの草原に、大きな木が、1本だけ立っていた。


「マザー‥?」大きな木は、白い枝を伸ばし、緑の葉をつけていた。望の記憶にあるマザーとは違うが、手を伸ばして幹に触れると、マザーのように感じられた。


「ああ、やっと会えました」温かいエネルギーと共に、深い喜びが伝わってきて望の心を満たした。マックのラストドリームのなかで、初めてマザーに触れたときのように。まるで、今まで自分が寂しかったということすら気づいていなかったように。


「マザー」思わず木に抱きついて額をつけた。ひんやりとしてなめらかな感触が気持ち良い。


『望、今はまだあまり長く話せません。何が起きたかは、思いだしてくれましたか?』


「何が起きたか? もしかして、隕石が落ちてきたこと?」ラストドリームを思い出しながら訊いた。あれは、実際に起きた、誰かの記憶だろうと考えていたが、やはりそうだったのか。


『そうです。あなた達が生き延びて、そちらで仲間を増やし、元気に暮らしていることは感じていました。こちらもの人類も生き延び、災害前より数を増やして暮らしています。私も何度も再生を繰り返して以前とは変わってしまいましたが、子供達は世界に広がり、元気にしています。しかし、こちらではパートナーの遺伝子を持つ人類が生き残りませんでした。今の私は人間と心を通じることができません』

マザーの寂しさと、深い悲しみが望の心に響いた。


『そちらの世界の子供達もこれまでパートナーと出会えなかったようですが、漸くあなたと出会えました。それで私もあなたと意識を共有することができるようになりました』マザーから再び喜びが溢れた。


「カリはやっぱりマザーの子供だったんだね」そういえばカリはどこだろう、と辺りを見回すと足元に小さな葉が触れた。見下ろすと、望がカリを植えた白い箱があった。


「カリ、君かい?大きくなったんんじゃない?」10センチ程の小さな木に、小さな葉がついている。


『うん。マザーが少しエネルギーをくれた』返事も前より滑らかになっている。


『その子はまだ小さいから、私があまり長くあなたと話すと良くありません。私からのエネルギーは少ししかあげられませんから、できればあなたから上げてください。やり方は覚えていますか?』


そう問われて、思い出した。マザーの世界でいろいろな芽にエネルギーを上げて、いろいろな木に育てたことを。ノゾミの得意なことだった。


「うん。思い出したよ、マザー」


『じゃあお願いします。会えて、うれしかったわ。また会いましょう』


「マザー、もう行くの?」まだまだ話したい事があるのに。


『もうその子が限界よ。もう少し育って強くなったらまたね』


「そう、うん、待ってるよ」


辺りが暗くなって、また何も見えなくなってしまった。


「望、望」乱暴に肩をゆすられて目を開けた。あれ、いつ目をとじたんだろう?


「何寝てるのよ。皆望を待っているのよ」ミチルが怒っている。


「あれ、夢?」周囲を見渡すと、いつもの部屋だった。ライトが明るくついている。


「何寝ぼけてるのよ。カリを置いたら戻ると思って待っていたのにちっとも部屋から出てこないんだから」部屋の外で待っていて心配になったとは、言いたくないミチルだ。


「そうだ、カリ」望はサイドテーブルの上に置いた箱を見た。そこには小さな葉をつけたカリがいた。


「ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ」望はほっとして微笑んだ。











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