18.小さな友達
「遅かったじゃないか。迎えに行くところだったぞ」
開発本部の入り口で待っていたリーが、ほっとしたように言った。
「ごめん。あれ、プリンスは?」
「なんかこの砂漠で育てている麦もどきがあるらしくて、それを見せてもらいに行ったよ。俺はあんまり興味がなかったから、ここで望とミチルを待っててやることにしたんだ。それより、何を大事そうに持ってるんだ?珍しい昆虫でも捕まえたのか?」
望が何かを大事に手の中に包み込んでいるのを見て、覗き込んだ。
「なんだ、木の芽じゃないか」それから何故自分が先に来たのかを思い出して、声を潜めた。
「もしかして、望に話しかけてきた奴?」
「うん、そうなんだ。一緒に行きたいっていうから。勝手に連れてきたけど、いいかな?」多分勝手に植物をとったりしてはいけないんじゃないかな、と心配になる。
「ふ~ん。いいんじゃないか。ここは望の会社の土地だろう?」
「そうかなあ。誰に訊いたらいいんだろ」
「望、どうかしましたか?」プリンスがジャビールと共にやって来た。望は案内のジャビールに訊いてみることにした。
「ジャビールさん、勝手にこの芽を持ってきてしまったんですけど、いけなかったでしょうか?」
「これは、まだ芽がでたばかりですね。お持ちになられる事は構いませんが、無事に育つかどうかわかりませんよ。カリは比較的丈夫で、割とどこででも育ちますが、大きくなりますし、鉢植えには向かないと思いますよ」ジャビールが、ちょっと呆れたように言った。
「持っていってもいいってよ。良かったな」リーが、ジャビールの返答から、都合のいい部分だけを聞いて、望の肩を叩いた。
「それじゃあ、戴いていきます。あの、何か入れ物をお借りできますか?」手中の芽の不安が伝わってきて、安心させるように手で包み込みながら尋ねる。
「はい。そのサイズなら、小さな入れ物で良いでしょうから、今お持ちします」ジャビールが諦めたように言って奥の部屋に急ぎ足で入っていく。
「それが望に話しかけてきた木ですか?」4人だけになったのを確かめてからプリンスが訊いた。
「そう。一緒に行きたいっていうから、取り敢えず連れて行こうかと思って」
「木には知性があると聞いてますけど、人間と会話ができたという話はまだ聞いたことがないですし、私も話してみたいな。後で紹介して下さいね」プリンスが興味深そうに小さな芽を見ながら言った。
「会話と言っても、それ程はっきりとは、話が通じないんだけど。う~ん、なんだか小さい子と話してるみたいな?」
「それでも、話ができるのはすごいですよ。楽しみです」プリンスがなんだかわくわくしている。
「これで大丈夫でしょうか?」ジャビールが、20センチ四方程のガラスの入れ物を持ってきた。その中には土も既に入っていた。
「有難うございます」望は土に小さな窪みを作って、そっとその中に芽のついた種を下ろすと、薄く土をかぶせた。
(ここで大丈夫?)そっと尋ねてみる。
(大丈夫。一緒に行く)元気な返事があった。
(うん。一緒に連れて行くから、もし苦しかったら教えてね)
(大丈夫)
望に小さな友達ができた。