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17.マザーの子供達 2

『救われた事さえわからない生き物でも、私の子供達です。あなた達の兄弟です。助けなくてはいけません』


その言葉をマザーから聞いたのは、何時だっただろう。

そうだ。

隕石が落ちて、世界が狂った。その中でマザーは助けられるものを助けようとしていた。マザーは自分の種から生まれた木々だけでなく、すべての木々を子供達とよんでいた。次元渡りをする僅かの人間達にできる限りの種を持たせていた。ああ、あの種はこちらで実を結び、生き続けたのか。すんなりとそう信じられた。


「望、どうしたの?」ミチルが心配そうに聞いた。


「えっ?」


「何泣いてるのよ。どうかしたの?」ミチルがちょっと荒っぽく、もう一度聞いた。


「僕、泣いてた?」慌てて目を擦る望。


『お母さん、会えた』手を触れている小さな木の芽から喜びが伝わってくる。


(そうだね。会えて僕も嬉しいよ)小さな芽をなでながらそう心の中で答えると、更に嬉しそうな思いが伝わってきた。


「望、その木はなんて言っているの?」ミチルが普段より幾分優しく聞いた。


「僕に会えて嬉しい、と言ってくれてるんだ」


「それで、どうするの?ずっとここにいるわけにはいかないわよ」もういつものミチルに戻っている。


「わかってるよ。皆を待たせてるし。また会いに来ることもできるだろうから」


「僕はもう行かなくちゃいけないんだ。また来るよ」望は名残惜しそうに小さな芽をなでながら言った。


『お母さん、私を連れて行って』小さな声が望の頭に強く響いた。


「だけど、ここは君の家だろう?この大きい木は君なんだろう?」驚いて尋ねた。


『私はここにいる。でも私はお母さんと一緒に行く。私は一緒に行ける。一緒に行ける』なんとなく 焦ったような、ねだるような調子で一緒に行くと言い張る小さな芽を振り切って立ち去ることなどできそうもない。


「どうしたのよ?」ちょっとイラついたようなミチルの声に顔を上げる。


「一緒に行くと言っているんだけど」


「その芽が?一緒に?一緒にって、どこへ行くつもりなのよ」


「どこへ?そうだね、どこか行きたいところがあるの?」


『お母さんと一緒に行く。今、行ける』


「僕と一緒に行くって、どこへでもいいの?この大きな木も君だったら、ここを離れて大丈夫なの?」


『お母さんと一緒。動ける私はお母さんと一緒に行く。動けない私は、ここにいる』


「小さい芽だけ一緒に来たいみたい。まだ芽が出たばかりだから動けるって言ってるみたい」そう言って、伺うように、ミチルを見た。


「どうしよう?」そう問いかけながら小さな芽をそっと摘まむと、まるで自分から飛び上がったように地面から離れて望の手の中に納まった。その小さな根にはまだ種がくっついている。


「どうしようって、もう摘んでるじゃない」


「摘んだわけじゃないんだけど」口ごもる望。


「摘んだんだからしょうがないでしょ。来たいって言うなら連れて行けば」諦めたようにミチルが言った。


「じゃあ、取り敢えずプリンスとリーに合流しようか。開発本部に行けば、植木鉢くらいあるよね」

 手の中にそっと小さな芽の種を囲って、立ち上がった。

 その瞬間、小さな芽からこれまで以上の喜びが伝わって来た。




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