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15.砂漠の木々と

「うわぁ、一体何メートルあるんだろう?初めて見る木だね」

 望達はパースから1300キロ程内陸に飛んで、いわゆるアウトバックに来ていた。この辺りは低い灌木と、背の高い木々が並んでいた。


「これはカリという木で、ユーカリの仲間です。高いものは90メートル以上ありますよ。この木は根が50メートルも伸びるので水の少ない地域にも生育し、成長も早いので、砂漠の緑化にはとても大切です」

 砂漠開発地区を案内するために望達を出迎えたジャビールが言った。先住民の血筋らしい彼はユニフォームではなく、濃い緑色のゆったりとした服を着ていてそれが褐色の肌によく似合っていた。


 望が中でも一番高い木に近づいて、幹に触れた。木をみると触れてみたくなるのが望の習性だ。触れると、木のエネルギーが伝わってくるようで、元気になる。子供のころからそうだったが、マックのドリームから目覚めて、その傾向が一層強くなった。


「暖かいね」目をつむると、木のエネルギーが流れ込んで来る。


『お母さん…?』


「えっ」誰かが呼んだような気がして慌てて振り向くと、プリンスが怪訝な顔をして望を見た。


「どうしたの?」


「誰か何か言った?」 


「誰もしゃぺってないわよ」ミチルはそう言いながらも用心深く辺りを見ている。


「何か聞こえた?俺には何も聞こえなかったけど」リーも辺りを見回しながら言った。


「ごめん。きっと僕の気のせいだ」


『お母さん、お母さんの匂い』今度はもっとはっきりと聞こえる。隣りにいるプリンスの顔を伺うが、何も聞こえていないようだ。


ふと足元を見ると大きな木の傍に小さな小さな芽が出ていた。カリの木の芽なのだろうか。


『お母さん?』どうもこの小さな芽から声が聞こえてくるような気がする。


(君が喋ってるの?お母さんを探しているの?)望はその小さな芽に優しく触れながら、心の中で語りかけた。


『お母さんだ!お母さん!』その子供のような意識はもつれていて、はっきりとした言葉として望には伝わらない。ただ、どうやら望をお母さんと思っているらしいことはわかった。


「せめてお父さんと言って欲しい」思わずつぶやくと、周囲を見回していた3人が望を見た。


「おい望、いきなり子供が欲しくなったのか?」


「ち、違うよ」


「どうしました、望?」プリンスがじっと望を見る。その何でも見通すような視線から思わず目を逸らし、それから思いきって顔を上げた。


「もし僕が、木の声が聞こえるっていったら、頭が変になったと思う?」


「木の声が?比喩ではなくて、実際に木が話している、という意味?」プリンスが念を押すように聞き直した。


「うん」


「俺は信じるぜ。木には知性があって、お互いにコミュニケーションをとっているのは知られている事実だし、望の頭が変になったと思うより、望が何らかの方法で木とコミュニケーションがとれると言われた方が信じられるからな」リーがまじめな顔で言った。

「私は別に驚かないわ。天宮家は昔から植物とは縁が深いし、望は子供のころから変だったしね」それにあの季節外れの桜の花の件もある。


「変って...」


「私も、望の言うことなら、信じます」プリンスが言った。望は子供のころからどこか浮世離れしていて、普通の人とは違っていた。


「それで、その木の芽がしゃべってるのか?何て言ってるんだ?」リーが望の触れている木の芽を指して尋ねた。


「何か僕のことをお母さんと間違えているらしくて。お母さんの匂いがするとかなんとか」


「お母さん?お父さんじゃなくて。ああそれで」さっきの望の独り言に納得するミチル。


「多分、親はお母さん、という観念なのでしょうね」とプリンス。


「そうそう。別に望が男らしくないという意味じゃないから心配するな」とリーに慰められてかえって落ち込みそうになる。


「僕は君のお母さんじゃないけど、お母さんを探しているの?君のお母さんはこの大きな木じゃないの?」今度は声に出して話しかけてみる。



初めて評価戴きました。しかも大変良い評価で、有難うございます。誰も読んでいると思わなかったので、一人でも読んで下さったと思うと嬉しかったです。

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