4. マダムノストラダムス
9月5日
望は、プリンス、ミチル、リーと共に再びマックの家を訪れていた。つい先週まで過ごした家なのに、随分久しぶりのような気がする。
今回はプリンスの家からのジェットで、何だか護衛も増えている。家に近づくと、ハチの誘導で、前回は見えなかった地下へのドアが開いた。外に出ると、そのまま広いホールのような場所だった。
「ハチ、ここはどこ?」
「地下3階の格納庫です」
「格納庫?」その言葉に食いついたのはリーだった。
「随分広そうだけど、他の車もここに置いてあるわけ?」リーが望に、というより、望の腕のハチに尋ねた。
「地下3階には地上用の小型乗用車が5台収納されています。地下6階に大気圏外用の小型スペースプレーンが収納されています。大型のものは、こちらの家には収納されていません」
「スペースプレーン! なあ、望、見たいよな?」ねだるような、脅すような口調でリーが言う。
「う~ん、見たいけど、今すぐでなくてもいいかな」そんなところに行ったら長くなりそうだし、今は他に確かめたいことがある。
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「えぇー」何やら粘ろうとしたらしいリーをミチルが冷たい視線で黙らせた。ミチル、まだリーに謝ってないよね。
「とりあえず、家に入りましょうか。望は何かやりたい事があって来たのでしょう?」プリンスが有無を言わさぬ笑顔で言った。
「うん、有難う」プリンスはいつも頼りになる。
「ハチ、僕が初めてマックと会った部屋に案内して」
「はい。こちらへどうぞ」
ハチの言葉と同時に並んでいたドアんの一つが開いて、望の前に黒の上下を着た24-5歳の男性が現れた。望達の前に立って進み始める。黒い髪、黒い瞳で少しオリエンタル風の美しい風貌だ。
「あれ、ハチ?」望が気が付いて聞いた。
「はい、ハチです」
「なにこれ、望のLC? いい男だな。望の趣味か?」リーが感心したように言った。
(望、彼の名前がハチなの?もっとなんか、似合う名前つけられなかったの?)ミチルがあきれたように囁いた。そんなこと言われても望も初めて見るのだ。
「有難うございます。このイメージは望様のイメージの秘書を使い、作成させていただきました」
「僕、秘書のイメージなんか持ってた?」そんな覚えはないんだけどな。でもこの顔どこかで見たような。何かの本で見たのかな。秘書というより、昔の執事?だったかな。
ハチ(のホロイメージ)に案内されて、望達はマックが”リビングルーム”と呼んでいた暖炉のある広い部屋に着いた。今は暖炉に火はなく、普通の人の数倍のエネルギーを発していた存在がいないせいか、部屋は余計に広く見えた。
「ああ、覚えているとおりだ」ほっとしたように望が言った。
「じゃあ、さすがに少し疲れたから、一旦皆部屋で休んで、ここに集合して、この家の探検?に行かない?」
「俺は疲れてないぞ」リーが少し不満そうに言った。
「リーは特別丈夫ですものね。私は何か冷たいものでも飲んで少し休むわ」ほら、褒めたでしょ?と言いたげにミチルがちらっと望を見ながら言った。それ褒めてるって伝わったかなあ。
「そうだね。じゃあ、1時間後にここで」プリンスが言って、それぞれが以前に割り当てられていた部屋へと向かった。
望は一旦部屋に入ってからすぐにそっと部屋を出て、リビングルームに戻った。
真っ直ぐ暖炉の横の棚に近づくと、透き通った水晶玉を手に取った。
「マダムノストラダムス?」
「はい、マスター」 イメージは現れず、声だけが応じた。マダムにも望が持ち主として認識されているようだ。
「マスターではなく、望と呼んで」
「はい、望様。ご質問は何でしょうか」
「君のデータソースは?」
「私のデータソースは、ウォルター社のグローバルデータベースで、連邦とA&Aのすべてのオープンネットワークと、連邦の90%、A&Aの99%のプライベートネットワークを元にしております」
「連邦の90%! それ違法じゃない?」マックは社内データだけの遊びのシミュレーションだと言っていたけれど、とんでもない。
「それは質問でしょうか?」
「え? ああ、質問というわけじゃないよ。僕の質問は、もし僕がマックから譲られた資産を売却しなかった場合の、僕自身と僕の友人、家族への影響、危険度が知りたいんだ。それと、売却した場合の連邦とA&Aへの影響も」
「少々お待ち下さい」