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264.アカの行く道2

『アカはもっとアカを増やしたい。もっと増やしてもいい?』 


「仲間を増やしたいの?アカは増えるのも早いものね。でも、ここでもっと増えると元からいる木が困るんだ」


『仲間?アカはみんなアカ。アカがもっと増えたらお母さん、困る?』


「そうだね、他の木が住めなくなったら困るな」


『お母さんが困るなら、アカはもう増えない』アカが悲しそうに言った。


「でも、仲間を増やせないのは辛いでしょ?」


『でも、お母さんが困るのはイヤ』


「有難う、アカ。でも僕もカリが辛いのはイヤなんだ」 望はしばらく躊躇ってから思い切って話しだした。


「これまで調べたところによると、アカはここよりもっと熱いところでも、寒いところでも、水がほとんどなくても大きくなれるそうなんだ。だったら他に植物が育たない場所でも、アカならもっと増えることができると思うんだけど、アカは遠いところに行くのはイヤ?」


『もっと増えられるのなら、アカはどこでも大丈夫。遠くでもっと増えるのなら、ここのアカはもう増えなくても平気』 アカにとってはどこで成長してもそれは同じ自分の一部のようだ。それなら…


「それじゃあ、ここ以外の惑星でも良い?遠いからアカの一部が旅をしなくちゃいけないし、ここみたいに穏やかな環境じゃないので、この星の木じゃとても育てない環境なんだけど、アカなら少しの助けで生きていけると思うんだ。そこならば、今のように狭いところに閉じこもらなくてもすべての地上を好きに使っていくら増えても良いよ」


 赤井教授によるとアカは火星でも多分育つと言われたが、実際に植えてみないと確定ではない。心配ではあるが、試してみる価値はあると思う。両親に相談したが、母はやってみたいと乗り気だ。


『遠い所?アカは遠いところに行くのが好き。お母さんと一緒に?』 興奮と不安が混じったような声がした。


「僕はそこには一緒に行けないけど、僕のお母さんとお父さんがいるよ。僕のお母さんは多分アカの気持ちがわかると思う」


『お母さんのお母さん?じゃあアカはそこに行く。そしてたくさんに増える。ここのアカはもうこれ以上増えない』


「有難う、アカ。じゃあ少しアカを分けて貰うね」 


『アカを沢山連れて行って』 アカがそういうと大きな木の根元から小さな芽が何十と伸び、瞬く間に数十センチの苗になった。


「アカ、それ以上大きくなると連れていけないから、そのくらいの大きさで止めて」 望が慌てて止めると、苗木は伸びるのを止めて、根を地上に巻き上げた。


「これは、便利ね。全部自分でやってくれたのね」 ミチルが呆れたような、感心したような口ぶりで言った。車中で泊まれるサイズの車で来ていたので、何とか運べそうだと、全員で車の中に苗を積み込んだ。


「アカ、じゃあこの子達を連れて行くね。アカはどの位遠くまで他のアカと話せる?」 望は気になって訊いてみた。


『アカはアカだからどこへ行ってもわかる』


「他の惑星(ほし)でもわかるかな?」 


『アカはアカ、どこに行っても大丈夫』 妙に自信あり気だが、少し信じがたい。でも、存在は感じられるのだろうか?感じられなかったらどう思うのだろう?


「もし、この子達が感じられなくなったら、アカは大丈夫?」


『アカは大丈夫。でも、どこにいてもわかる』 アカはちょっと考えてからもう一度繰り返した。


「そうだといいね。でももしわからなくなって不安になったら僕に教えてね」 植物の感覚に効くブースターとかないのかな、などと思いながらアカに別れを告げた。




「アカが納得してくれて良かったですね」 静かに成り行きを見ていたプリンスが車の中で望に言った。アカを火星に送ることについては赤井教授やウィルソン所長に相談してから、火星の両親に連絡してシュミレーションを進め、漸く許可が下りた。


「うん。アカは繁殖力が強すぎてこのままだと地球の生態系を破壊しかねないって言われてどうしようかと思ったけれど、火星開発に役に立つと教授達が政府に言ってくれたおかげで助かったよ。あのままじゃアカを殺すなんて言われそうだったからね。プリンスにもUOの貸し出しの件で色々と力を貸してもらって、本当に有難う」


「赤井教授の意見では、あのUOを使えればう成功確率が格段にあがるそうですからね。しかし、今のところ望以外にあれを扱える人間がいないので、その点が心配ですが」


「僕は母さんなら使えるのじゃないかと思うんだ。駄目でも、アカなら生きることはできると教授は言っているしね」


「そう言えば望の母上は地下でのマナフルーツ栽培に成功されたのですよね。アカが地上で生きることが出来れば僕達の子孫は緑の火星が見られるかもしれませんね」 プリンスがそう言って、望達は車に積んだ小さな苗達を見ながら緑の火星を思い描いた。

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