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262. アウトバック

 「ここら辺ってもともと草木が生えてないんだろ?」 赤茶けた大地を見渡しながらリーが言った。

 

 望達は早朝からムタウィントジ保護区に来ていた。望が感じていたブラックスポットの周辺を管理する先住民団体からちょうどこの地区の植生を活性化する依頼がグリーンフューチャーに入っていたのがわかって、早速引き受けたのだ。


 「そんなことないよ。ちゃんと保護区の動物たちが生きていけるだけの植生はあったそうなんだ。もっとも、この辺りはもともとアウトバックだから多少むき出しの土地が広がっていってもしばらくは気が付かなかったみたい。でも動物たちが死に始めて、管理人が気がついたんだって。この区域は先住民の自治体によって管理されているんだけど、その自治体からフューチャープランニングに相談があったんだ。どうやら関連会社のグリーンフューチャーが連邦政府の依頼を受けて何らかの方法で荒廃した土地の活性化を行っているという情報をつかんだそうなんだ」


「極秘だって契約だったのにどこから漏れたのかしら?」 ミチルが怖い顔をして呟いた。プリンスも難しい顔をしている。どこかで誰かが怖い目にあうかも、と望は密かに思った。


「ともかく、動物達にも被害が広がっているそうだから、僕が出来るだけはやってみるね」 望は慌ててそう言うと、プリンスから白い物体を受け取り、皆に下がるように指示した。


「このくらいで良いかな?」 1時間ほど進んだところで歩みを止めると、見渡す限り低い草木が生い茂った草原になっていた。後方では案内してくれた数人の先住民達が地面に跪いて祈りを捧げている。それを見て望はちょっと困った顔になった。世界のあちこちで同様のことを行ったが、地元の反応は大きく2つに分かれた。大多数はこれをグリーンフューチャーによる最新の科学技術である、として感謝はされるが、同時に独占せずに共有するべきだと非難めいた意見を言われる。それ以外の場所では望が何か特殊な能力を持っているとして信仰の対象のように扱われるのだ。どちらも困ったもので、仕事が済んだらなるべく顔を合わせないようにすぐにその場を離れるようにしている。今回も急いだほうが良さそうだと思った望はプリンスに連絡して依頼者と顔を合わせることなく現地を後にした。


「望、やりすぎよ」 どうやらかなり引き止められたのを無理やり引き剥がして来たらしいミチルが不機嫌に言った。


「えっ、そうかな?」 望は慣れてきたせいかここ最近の仕事は大した力もいらなくっているので、やりすぎたかどうか分からず、首を傾げた。


「もともとはまばらに草や灌木が生えている程度だったそうよ。それがまるでアフリカの草原並になってるじゃない。あの人達、奇跡だって泣いてたわよ」


「そうだったの? でも前より緑が増えたんなら良いよね?」 ちょっと自信なさそうにプリンスを見ると、プリンスは困ったように笑っている。


『皆とっても喜んでたの。お母さんは凄いの。ミチルはおバカなの』カリが力づけてくれる。


「有難う、カリ…じゃあアカに会いに行こうか」 望はカリの葉を撫でると、気持ちを切り替えることにした。やってしまったことはしょうがない。


「おう、急ぐなら俺が操縦しようか?」 リーが立ち上がりながら訊いた。


「リーはじっとしてなさい」


「急いでないからゆっくりでいいよ!」


「まだたっぷり時間がありますから急ぐ必要はありません」 


『カリの子分に任せるの!』 


「わかったよ」 リーが不貞腐れて席に座り直した。




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