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261. AIによる新しい味とは

「望、本当にリーに任せても良かったの?」 どこか不安そうにミチルが言った。


「リーはライセンスを取ってから操縦時間もかなりだっていってたから…大丈夫だよね?」 返事をしようとした途端に機体が大きく跳ねて、望の声が少し自信なさげになっている。


『カリの子分の方がじょうずなの。リーはへたくそなの』心なしか気分の悪そうなカリがそう言って珍しくミチルがうなずいて同意している。


「子分って、ハチの事?いつからハチはカリの子分になったのさ?」 訊いてみるがハチは答えない。なんだか恥ずかしそうにしているような気がするのは…多分気のせいだろう。いつの間にかカリのキャリアーをカリの指示で操縦してやっていることとといい、どうもハチはカリに弱いようだ。二人(?)の間にどういうやり取りがあったのか、と望は疑問に思ったが知らない方が良いような気もした。


 冬休みに入って、久しぶりにA&Aの家に行くことにしたのだが、リーがどうしてもと頼むのでステルスを使い、リーが操縦している。自動操縦すれば問題ないのだが、リーが手動操縦したがり、その上やたらと難しい飛行技術を披露したがるのが問題だ。操縦の腕はかなり良いらしいのだが、あまり乗り心地を考慮してくれないからミチルが嫌がるのも無理はない。流石の望も次からはいつもどおりハチに任せようと密かに思っていた。


「プリンスは流石に賢いわね」 プリンスはどうしても外せない仕事があるとかで、現地で合流することになっている。


「別にわざとじゃない…と思うよ」 自信なさそうに望がプリンスの弁護をするが、ミチルに馬鹿にするように見られただけだった。


「おい、もう着くぞ。いつもより15分は時間短縮できたぞ」 操縦席からリーが得意そうに声をかけて来た。


「僕は別に15分節約しなくても良かったんだけど」 望が小声で呟いたが無視された。




「それで、望はA&Aにあるブラックスポットを癒しに来たわけですよね?」 何故か先に着いていて望達を出迎えたプリンスが疲れ切った様子の望とミチルに新鮮なマナフルーツを絞ったジュースを差し出しながら確認するように訊いた。


「うん。それもあるけど、ちょっとアカの様子を見に行きたいんだ」 望はそう言ってから渡された鮮やかな緑色のジュースに恐る恐る口をつけた。おじい様が時々飲んでいる苦いアロエジュースのように見える。


「美味しい!新しいマナフルーツだよね?誰が作ったの?」見た目に反して全く青臭さのないジュースは絶妙なバランスで、新しいが、どこか懐かしいような味もした。


「本当に美味しいわね。何かしら?りんご?パパイア?少しミルクティーみたいな味もするわね」 ミチルも一口飲んで、驚いている。


「これはハワイ島の研究所の新作です。なんとかマナフルーツ同士の掛け合わせには成功したので、現在組み合わせの実験中なのですが、なかなか難しいらしくて、まだそれ程成功例はないそうです。これは数少ない成功例のなかでも最高のできだ、と所長が送って来たものです」


「これは素晴らしいと思うよ。なんだか懐かしいけど、新しい味がして。そう言えば第2世代、第3世代とか言ってたね…人間のエネルギーは使っているんだよね?」


「マナフルーツは人のエネルギーを与えないと育たないのは、掛け合わせた世代でも同じですからね」プリンスが望を安心させるように言った。この点については何度も実験を重ねたが、マナフルーツを育てるには人のエネルギーが必要だと言う結果がでている。それをしなければ木は育たないで枯れてしまう。


「これまでのところ自由に意図した味を創りだせるのは望くらいですからね。AIによる掛け合わせの成功率がもう少し上がれば、すべてを望に頼らなくてももっといろいろな味のマナフルーツを創れるようになるはずですから、望の負担も減るでしょう」

 

 プリンスをはじめ何人かは新しい味のマナフルーツを創る事に成功はしているが、どれも従来の果物と大して変わらないもので、果物からかけ離れたマナフルーツを創造しているのは望だけなのだ。そのため、市場が広がるにつれて、どうしても望に新作の期待が寄せられることになる。プリンスはウィルソン所長らと協力して望の負担を減らすためにAIを駆使して新しい味の創造を進めている。


「僕も初めての味が楽しめて嬉しいよ。これからどんなものができるか楽しみだね」


「そうね。望が創ったのは日本の和菓子風な味とか、そうでなければお子様向けの味のものが多いから、AIにはもう少し大人向けの物が出来るように期待するわ」 ジュースを飲み終えたミチルがそう言ったので望が思わずミチルを睨んだ。


「そんな気軽なもんじゃないぞ。失敗作を食べてみろよ。1週間は食欲が無くなるようなのもあるからな」 リーは何度か実験の試食に付き合わされている。とんでもフルーツの味を思い出して遠い目になっている。






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