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2. ハチの秘密

9月3日


「望、これを返しておこう」祖父がそう言ってハチを望に手渡した。


「もういいの?」研究したいとずいぶん目を輝かせていたのに。


「ああ、厳重なセキュリティがかかっていてな、無理をしたら壊してしまうらしい」苦笑いしながら、残念そうにハチを見ている。(世界を破壊するとか、さすがに本当か嘘が試してみる気にはならんよ)


望はハチを手首に付け、耳につけたピアスを通してハチに話しかける。新しい技術には目が無いおじい様にしては、随分あっさりと諦めたものだ。


(ハチ、大丈夫?)

(望様、私に異常はございません。御用は?)


(別に用事はないけど、勝手におじい様に貸し出して怒ったんじゃないかと思って)


(私に感情はございません)


(そうなの?)なんだか言い方が冷たいような気がするんだけど。


(何か御用はございませんか?)重ねてハチが聞いた。


(おじい様たちに何か嫌なことされなかったかと思って)


(私に嫌なこと、はございません)


(じゃあ、何をされたの?)


(私のシステムの解析、および、データのダウンロードを試みられましたため、防御システムが働きました。望様のご家族であると理解しておりましたため、ウォーニングのみで、実行には至りませんでした)


(ウォーニング?)どうも深く聞いてはいけないような気がする。


「ところで、今後の事について少しは考えてみたかな?」望が考え込んでいると、おじい様が真剣な顔で言った。


「とりあえず、昨日言ったいくつかの利権については早急にA&A政府に返事をした方がいいと思うよ。私としては、望が必要以上の危険と苦労を背負い込むのには反対だ。さっさと手放して、あとはアンダーの政府内で争うなりなんなり好きにさせればいい。長く持っていればいるほど危険度が高くなるからな」


「わかってるんだけど、まだ全部の利権に目を通してないし、マックが僕に何をして欲しかったかもはっきりわからないから、すぐには決められないよ」それに、どう考えても自然保護のためと思われるものも多くて、それらは手放してはいけない気がする。


「まあ、それは仕方がないが、もたもたしていると連邦政府からも横槍がはいるぞ」


「連邦政府?」ほとんどの資産はA&Aにある。マックの連邦での資産は、マックが連邦と袂を分った時に政府によって強制没収されたはずだ。


「ああ、連邦にとっては、戦わずしてA&Aを乗っ取る2度とない機会だろう」


「乗っ取る?」なんだか話がとんでもない方向へ向いている。


「おじい様、僕もう一度マックの家に行って、それからお返事してもいいでしょうか」ちょっと確かめたいことがある。


「今、アンダーへ行くのは危険すぎると思うがなあ。どうしても行かなくてはならない理由があるのか?」おじい様は顔を顰めて言った。


「うん。どうしても気になることがあるんだ。それを確かめてから返事をするから」


「まあ、あれはもう望の家だ。セキュリティは超一流だろうし、行き帰りに油断しなければいいか。ミチルさんに頼んで一緒に行ってもらいなさい。どちらにしても、この件が片付くまで念のため学校は休んだ方いい」


「わかったよ」またミチルに文句を言われるのは気が重いが、もし一人で行ったら文句どころでは済まないだろうし。



おじい様と別れて自分の部屋へ戻った望は、改めてハチに話しかけた。


(ハチ、マックは僕に何かメッセージを残してない?)


(ミスター ウォルターから望様には111のメッセージがございます)


「111? なんでそんなにあるの? それより、メッセージがあるなら何故、伝えなかったの?」少しむくれて、思わず声に出して聞いた。


「それぞれのメッセージをお伝えする条件が整っておりませんでした。現在、第一のメッセージをお伝えする条件が整いました。プレイしますか?」ハチもまた音声で答えた。


「条件? どんな条件? えっと、プレイして」


「第一の条件は、ミスターウォルターの死後、望様が財産を引き継がれたことを知った時、でした。残念ながら、私はその時点で、望様のおそばにおりませんでしたので、すぐにメッセージをお伝えすることができませんでした」明かに不服そうな声でハチが言った。


(やっぱり、怒ってるじゃないか)こっそり思った。


(私に怒りの感情はございません)話しかけていないのに心を読まれてしまった。インターフェイスを使うときに私的な思考を別にするように、深層思考しなくては。

 望は自分の意識を分けることができる。小さい頃から、自分の中に別の意識があるようで、それがラストドリームを作るのに役に立っている。見たことのない世界を創造しながら、別の自分がそれをクライアントの要望に添わせるように導いていく。時々、ミチルの説教に真面目な相槌を打ちながら、全く別の事を考えることもある。望はこれを”深層意識”とよんでいて、ミチルにも気づかれたことがない。きちんと返事をしながら別の事を考えられる望の”特技”だ。ハチに通じるか、試してみなくては。 


「とにかく、プレイ」


すぐに望の目の前に懐かしいマックの姿が現れた。アイシールドをはずし、暖炉の前でくつろぎながらこちらを見て、口を開いた。


「望、君がこれを見ているということは、私は無事にあちらの世界に旅立ち、君は私が君に課した荷物の事を知ったというわけだね」



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