259. お母さんは凄い
『お母さん、どうしたの?誰かいじめたの?ミチルがいじわるしたの?やっつける?』今日の目的地であるマナウスに向かうジェットの中で物思いに沈んでいる望に、自分のキャリアーごと隣のシートに固定されているカリが尋ねた、
「有難う、カリ。でも誰にもいじめられてないよ。ちょっと考え事をしていただけ」
「望が考え込んでいるからカリが心配しているんですね?」カリの反対隣に座っているプリンスが望の方を見た。
「うん。ちょっと気になることがあって…」
「気になること?構わなければ話してくれませんか?」
「なんでもないことかもしれないけど…昨日赤井教授の研究室でUOを使った時、変な感じがしたんだ」
「変な感じ、ですか?」
「うまく説明できないかもしれないけど、この頃はいつも他の子達の力を借りてエネルギーを蒔いていたからどうもそれに慣れていたみたい。昨日は念のために他の子達からのエネルギーをブロックしてたから、僕だけだったんだ…範囲も凄く狭かったから問題はなかったんだけど…なんていうかいつも感じる一体感がなくて、木の気持ちが殆ど感じられなくて、ちょっと寂しい、というか」
『あの子達はすご~くお馬鹿。カリともお話しできない。お馬鹿がお話しできなくてもお母さん寂しくない。カリは一杯お話しできる』
「そうだね、カリは特別賢いからね。でも他の木を馬鹿って言わないんだよ」カリの葉を撫でながら嗜めるが、カリは納得しない。
『お馬鹿はお馬鹿。ミチルよりもお馬鹿』
「カリはなんて言っているのですか?」興味深そうにプリンスが訊いた。
「カリによると昨日の木はお馬鹿だからカリとも話せないって、全くどこでそんな言葉を覚えたのか」
「確かに2億年前の木では今の木に比べると原始的で、感情も未発達なのかもしれませんね」プリンスがちょっと考えてから言った。
「そころで、望はいつもエネルギーを与える木の気持ちを感じるのですか?」望が木と話ができるのは勿論知っていたが、大量の木々にエネルギーを与えながらそのすべての木の気持ちを感じているとは知らなかった。それは結構重荷ではないのだろうか?
「マザーの子供達の力を借りている時は特に世界中の木の意識を一度に感じるような気がして、僕もその一部になったような気がするんだ。勿論、カリは特別に感じてるよ」カリがちょっと不満そうに葉を震わせたので、慌てて付け加えた。
「それは…興味深いですね。カリはそんな時どんな風に感じているのですか?」 プリンスは今度はカリの方を見て訊いた。
『お母さんは凄い。でも、お母さんはカリのお母さん。皆は家来』 プリンスが小首をかしげて望を見たので、望は苦笑しながらカリの言葉を伝えた。
「家来、ですか」 プリンスが成程、というようにカリを見た。カリは得意そうに葉をプルプルしている。
「世界中の植物を感じる、というのはどういう感覚なのでしょう?」 プリンスが夢見るように呟いた。
「本当にそうだと言うわけじゃなくて、そんな気がするだけかもすれないけど…なんだか彼らの意識が大きく繋がっているのがわかるような気がするんだ。でも、その繋がりに何か所か綻びがあって、僕達が助けに行っているところがその綻びの場所に一致してるようなんだ。そうだとすると、連邦政府に頼まれた場所の他にも幾つか行った方が良い場所があるんだけど、まだはっきりした場所がわからなくて」
「繋がりの綻び、面白いですね。ウィルソン所長に話しても良いですか?」
「僕の妄想だと思われなければいいんだけど」 ちょっと心配そうな望に、とんでもない、とプリンスが請け合った。
「植物の事に関してはウィルソン所長は望を崇拝してますから、例え望が空飛ぶ木がいると言っても信じてくれますよ」
「空飛ぶ木って、それもう木じゃないと思うけど…」




