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257.肥料?

「望、何か忘れてない?」 望がコーヒーを飲み終わって立ち上がろうとした時、側でアイスティーを飲んでいたミチルが訊いた。


「? なにかあったっけ?」 一瞬首を傾げた望にミチルが呆れた表情で(赤井教授)と声を出さずに言った。


「あっ、そうだった。プリンス、赤い教授がUOを貸して欲しいっていうんだけど。僕のものじゃないからドミニクに聞いてくださいって答えたら、僕からドミニクに聞いて欲しいって言われたんだ」困ったように言う望に、プリンスは苦笑いした。


「それは、さすが赤井教授というべきでしょうか」


「ミチルは僕が訊いたらドミニクが断れないだろうって、言うんだけど、プリンスもそう思う?」


「そうですね。教授ももちろんそれがわかっているから望に頼んだのでしょうね。ずる賢いというかなんというか」


「僕はそんなつもりはなかったんだけど。ドミニクの事が苦手だっていうからリクエストを伝えるだけなら良いって引き受けたのに…どうしよう?」


「あの教授に苦手な相手なんているとは思えないわ。逆はあるでしょうけど」 ミチルが言った。


「望はどうしたいのですか?あれを教授に貸してもいいと思いますか?」 プリンスの質問に望は首を傾げた。


「最初は別に構わないんじゃないかと思ったんだけど、もしアカのサンプルと一緒に実験なんかされたらと考えたら迷ってしまって…」


「私が言うまで気がつかなかったけどね」 ミチルが口をはさんだ。


「確かにあれを使ってどんな実験をされるかは心配ですね…」 プリンスもその可能性には思い至っていたらしい。


「取り敢えず、あれを使ってどのような研究をするつもりか詳細な計画書の提出を要請するようにドミニクに言いましょう。私達から言うよりドミニクが言ったほうが効果がありそうですしね」


「そうだね!」教授に頼まれたことをなんとか果たせそうでほっとした望が元気に言った。





『ふふふっ』 楽しそうな笑い声がして、望は目を開けた。見慣れた天井が目に入り、自分の部屋にいることがわかった。


「誰?」


『ノゾミ、起きたの?』 声のする方を見るとカリの横にカリより少し大きいサイズのマザーの姿があった。


『お母さん』カリが小さく葉を震わせた。


「マザーが小さい。夢を見ているのかな?」 望がつぶやくとマザーが笑った。


『夢、かどうかは望が決めること』望が起き上がると、マザーは楽しそうにそう言ってカリと葉っぱでハイタッチをしている。


「まあ、どっちでもいいや」 ちょっと考えてから肩をすくめて望が言った。


「マザーには子供達のことでお礼を言いたいと思ってたんだ。マザーが言った通り凄く助けて貰ってるよ。あの子達を送ってくれて有難う」 望はマザーに向かって深々と頭を下げた。


『助けて貰っているのはわたしたちよ。ノゾミのお陰で弱った皆が生き返ることができて皆とても感謝しているわ』


「みんな?こちらの木達?」


『こちら?わたしたちは皆同じだからこちらもあちらもないのよ。手が届かなくて困っていたところにノゾミが手を差し伸べてくれたから皆が元気になってきているわ』 どうもよくわからない。手が届かないので痒くて困っていた所を掻いてあげたかのように聞こえる。そんな感じかな?


「ところでマザーはあの白い骨のようなものについて何か知っている?あれがあると僕とオーラとやらが広がるってある人に言われたんだけど、僕にはオーラなんて見えないからわからないんだ」 ふと思い出してマザーに訊いてみた。


『私の記憶も遠いものは消えつつあることは話したわね。その記憶に白くて小さな葉のない木のようなものがあるわ。人が植物を育てる時に使う機械ね。植物に与える力を増幅して、成長を促進するためのものだったはずよ』


「機械なの?植物の肥料みたいな?」 望がもう少し詳しく訊こうと身を乗り出した時、体が揺れた。



「望、まだ寝てるの?もう起きないと大学に遅れるわよ!」 誰かが乱暴に望の体をゆすった。望が目を開けると見慣れた天井と、もっと見慣れたミチルの顔が目の前にあった。


「夢、だったのかな…」 望はそう呟いて、ベッドの側にいるカリを見たが、カリは何も言わなかった。寝ているように見える。


「何を寝ぼけているの?今日は一時間目から講義があるでしょ」 


「ミチル様、望様の起床予定時刻にはまだ8分ございます。その時間で講義には間に合います」 執事姿のハチが現れてミチルに言ってくれた。


「まだ大丈夫なんじゃないか」 不満そうに見上げる望を、ミチルは構わずに引き起こした。


「何だか変な夢を見て早く目が覚めたのよ。だから望も起きなさい」いつものミチルだった。



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