249.侵略された?
結局望は赤井教授にすべてを話した。望とプリンスは教授の押しの強さに負けて、新しく機密厳守の契約を結ぶことを条件に教授をあの白い物体の研究に参加させることに同意した。もともとプリンスもウィルソン所長の研究仲間である赤井教授をこの件に参加させることを考えていたらしいが、教授の押しの強さにどうも苦手意識があって躊躇っていたそうだ。いますぐにそれを見せろと騒ぐ教授に、ハワイ島の研究所に保管してあると告げた途端、ハワイ島に行くと言って出て行ってしまった。
「なんだかすごく疲れたね」 何とか次の授業には間に合いそうだと、教室へ急ぎながら望がぼやいた。
「そうですね」 プリンスも疲れたような声を出している。
「無駄な抵抗だったわね。望じゃどうせ教授の思い通りになるんだから」ミチルは諦めたように言った。
「それにしてもアカは地球外生物だったのね。普通じゃないとは思ってたけど」ミチルにしては幾分興奮気味にそう言った。
「そうじゃないかとは思ってたけど、やっぱり驚くよね」 と望。
「望はわかっていたのですか?」 プリンスが望を見て訊いた。
「なんとなく。でもこれではっきりしたから、これからどうするか考えなくちゃね」
「そうですね」望の言葉にプリンスも難しい顔をした。
「これからどうするか?何を考えるわけ?」 ミチルが怪訝そうに訊いた。
「アカはね、いわば外来種なわけ。しかも異常に繁殖力の強い外来種」 望の言葉にミチルが気がついて頷いた。
「確かにそれはまずいわね」
「うん。今は僕の言うことを聞いてくれているし、あそこはもともと砂漠だったからいいけど、いつまでもあのままではいられないだろうし、放っておいたら地球の生態系を壊してしまうと思う」
「大変じゃない。今のうちに燃やしてしまったら?」 ミチルの言葉に望が顔を引き攣らせた。
「燃やすって、ミチル。アカは知性のある生き物で、意思の疎通ができるんだよ。そんな事したら殺人と同じだよ」
殺人、と言われて今度はミチルが顔を引き攣らせた。
「でも、これはいわば侵略戦争でしょ。その場合はこちらも武力を持って対抗しないと、黙って征服される訳にはいかないわ」ミチルが小さな声で反論した。
「話せば分かる、と昔の偉い人も言っているじゃないか。まず話し合って解決策をみつけようよ」
「それを言った人はすぐに撃ち殺されたわよね」 ミチルが言った。
「えっ、そうなの?」 望は確かめるようにプリンスを見たが、プリンスは苦笑して頷いた。
「アカをどうするかについては、植物研究所とも相談する必要がありますから、望一人で悩まないで下さい。どうせ来月の政府からの依頼の件で来週末には研究所には行かなくてはならないのですから、アカの件も皆で話し合いましょう」 プリンスの言葉に望は肩の荷が少し下りたような気がした。
「そうだね。皆で考えれば良い案も浮かぶかもしれないものね」とにかくアカを殺させるわけにはいかない、と望は思った。
翌週、連邦政府からグリーンフューチャーへの正式な開発依頼が送られてきた。優先順位を参考にしながら、規模と望の予定を鑑みて訪問先を決めるため、望達はハワイ島へ向かった。
「天宮君、待ってたわよ。あのUOはすごいわね!」 研究所内に入るなり待ち構えていたらしい赤井教授に腕を掴まれた。望はデジャヴ感に襲われた。
「教授、まだここにいらしたのですか?あまり授業を休講にされると大学では困っているのではありませんか?」 プリンスが望の腕を奪い返しながら訊いた。
「こういう緊急時のために助手がいるんだよ。問題ない。そんなことよりあのUOを使うところを是非私にも見せてくれ。実際に発動しているところを見たい」
「教授、明日今後の方針と予定について会議がございますのでその会議が終わりましたら、あれが使われる様子をご覧になる機会はあると思います。どうかその時までお待ちください」 プリンスが丁寧な口調でそう言いながらも望を引っ張って私室ゾーンへ続くエレベーターに乗り込み、教授の鼻先でドアを閉めた。素早い展開に望は口をはさむ暇もなかった。
「どうやらあの人もついてきそうね」ミチルがため息交じりに言った。
「奇跡でも起きない限り…」 プリンスが諦めたように言った。




