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246.寝過ごした

『ノゾミ、頑張ったわね』 誰かが優しく望の頭を撫でているようだ。


「マザー?」 眠くて閉じそうになる目をやっと開けると、頭上にはマザーの七色の葉が繁り、きれいな音楽を奏でていた。空は紫がかった蒼で、雲が遠くに白く浮かんでいる。ああ、夢か。


『ノゾミ、皆を助けてくれて有難う。でも、もう少し頑張ってもらわないといけないのよ』マザーの声がどこかすまなさそうだ。


「僕はあの木までたどり着けなかったんだっけ?」 そうだ。あの木にたどり着く前に物凄く眠くなってしまったんだ。あの木は大丈夫だろうか?今にも諦めて死にそうだったのに。


「もう一度行ってくる」望はそう言って起き上がろうとした。


『あの木なら大丈夫よ。あの地は生き返ったわ。ひどい状態だったから望の負担が大きかったけれど』


「そう、あの木は大丈夫なんだね?」 


「じゃあ何を頑張らないといけないの?」 


『それはすぐわかるわ。ノゾミにしかできない事だからお願いね。もうしばらくお休みなさい』マザーがそう言うとたまらなく眠くなって望は意識を手放した。


『お母さん、お母さん』 誰かがそっと望の頭を撫でている。柔らかくてくすぐったい。


「カリ?」 目を開けるとどうやら京都の家の自分の部屋のようだ。ベッドではなくて布団に寝ている。枕元にはカリがいて、カリの葉が望の頭を撫でている。


『お母さん、目が覚めた!』 カリが嬉しそうに言った。


「カリ、無理に起こしちゃダメだって言ったでしょ」 ミチルの声の方を見ると、ミチルは部屋の障子を開けて、縁側に座っていた。


『カリは起こしてない。お母さんが起きたの』 


「いつの間に家に帰ってきたの?」 ゆっくりと起き上がってミチルに訊ねた。


「いきなり倒れるから驚いてとりあえず真っすぐ帰って来たのよ。ただの過労だってことだから寝かせておいてあげたわけ。まさかこんなに寝るとは思わなかったけどね。流石望よね」


「僕、どのくらい寝てたの?」 何だかすっきりしているからもしかしたら丸一日眠ったのだろうか?


「帰って着たのが29日で、今日が9月1日よ。もう夕方だから丸3日寝てたわね。いくら暢気な望でもち呆れたわ」 ミチルは肩をすくめていかにも呆れた様に言ったが、2日目からは心配で数時間おきに医者とメディカルロボを無理やり連れてきて診断させていたのだ。


「3日!」 信じられない。


「今日が1日ということは、授業が始まったよね?」 


「一応届けは出しておいたわ」


「有難う。ところでアルハンはどうなったの?僕途中で動けなくなったから、あの木まで行けなくて」

 望の心配そうな声にミチルはムッとしたような顔をしたがハチに言って高原の様子を見せるように頼んだ。


 サテライトイメージは望が倒れた場所よりずっと先まで続く緑の草原と、その中央に立つ瑞々しい葉をつけた大木を映していた。


「ああ、良かった。あの木も、もう大丈夫だね」 ほっとして嬉しそうに言う望にミチルがため息をついた。


「良かった、じゃないわ。あいつら厳重に口止めしたにもかかわらず望を救世主だとか、誰だかの再来だとかって騒いで、もう世界中でこの件を知らない人はいないんじゃないかしら」


「救世主って…」何と言っていいのかわからない。


「とにかく、目が覚めたんなら、着替えて。念のためにメディカルロボにチェックして貰ってから、何か食べなさい。プリンスが帰って来たら今後の対策を話し合わなくちゃならないから」


「プリンスは大学?」 


「まさか。プリンスは今回の事の対応で連邦政府と話し合っているわ」


「連邦政府?」 なんでそんなことになっているの?首を傾げる望にミチルが呆れたように言った。


「当たり前でしょ。せっかく新しいミステリースポットなんていう噂で済みそうだったマナリの件も含めてすべて望がやった事がほぼバレたんだから」






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