表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
271/295

243. 高原の星空

「うわあ…」 ゲルと呼ばれる大きなテントから外に出て夜空を眺めた望は思わず声を上げた。視界を埋め尽くす星々に続く声を失った。


「すごいとしか言えないですね」 一緒に空を見上げたプリンスもほっとため息を付いた。


結局すべての準備を終えた頃にはかなり遅くなっていたので明日の朝から始めることにして、この高原で一晩を過ごすことになった。広い高原には所々に見える白いゲルの他には建物もなく、そこから漏れるわずかな明かり以外は何も見えない。その代わり、頭上には見渡す限りの星空が広がっていた。


「僕、京都は結構夜空が綺麗だと思っていたけど全然違うね。満天の星空って言葉の意味が初めて分かったと思う」 京都は地上の建造物が厳しく制限されているので夜には星も見える。都会では珍しいと少し誇りに思っていたのだが、あれは星空とは言えなかったんだ、と気が付いた。望の言葉にプリンスが頷いた。


「太古の地球に戻ったような気がします。これが経験できただけでもここに来てよかったと思いました」プリンスの言葉に、今度は望が心から同意した。


「確かに、無数の星の存在を知識としてではなく、実感として感じるわね」ゲルから出て来たミチルがやはり空を見上げて呟いた。それから気を取り直したように望を睨んだ。


「望、外に行くときは私に声をかけるように言ったでしょ」


「ちょっと外を覗いてるだけだよ。そんなに心配しなくても大丈夫だから」


「心配してるんじゃないわ。私は仕事をしているのよ。守られる方は護衛の言うことに従うようにといつも言ってるでしょ。護衛対象がフラフラしていたら仕事にならないんだから」


「わかったよ。でも、プリンスの護衛はそんなことプリンスに言わないよね?」 望が少し不満そうにそう言ってプリンスを見た。プリンスが苦笑してミチルを見た。


「私の護衛もいますから、私が一緒にいる時はそう警戒しなくても大丈夫じゃないですか、ミチル」


「望、プリンスの護衛は何人が交代制でやっていると思ってるの?私は一人なんだから、望が協力してくれないと無理なのよ」 ミチルはプリンスの言葉には答えず、望に言った。


「プリンスの護衛ってそんなに大勢来てるの?」 姿が見えないので気が付いていなかった、とプリンスを見た。


「正確な人数は知りませんが、3交代制ですから18名くらいでやっていると思います。ミチルのように側についていない代わりに周囲を警戒しているはずです」


「3交代制…8時間勤務ってこと?知らなかったよ。ミチル、一人で護衛なんてやらせて、ごめんね。もっと人を雇った方が良いよね?」 望は自分がミチルにひどいことをしていたような気がして申し訳なくなった。いつもミチルが自分にあれこれと命令するのを不満に思っていたのを思い出して恥ずかしくなった。


「わかればいいのよ。ちゃんと私の言うことを守ってくれさえすれば」 望の謝罪に機嫌を直したミチルが鷹揚に言った。


「望様、現在望様には24名の護衛がついております。勿論ミチル様の護衛は重要ではありますが、ミチル様が離れられても特に危険はございません」 ハチの声が聞こえた。


「えっ、そうなの?何時から?ミチルも知らなかったの?」望は驚いてミチルを見た。ミチルはまずい、と言う顔をしている。


「私が望様の下に来てからすぐに手配いたしました。その後、ミチル様との協議の末、護衛のスケジュールはミチル様の指示に従っております」 ハチが少し不満そうに言った。


「私が望の護衛担当なんだから当たり前でしょ。私はもう寝るわ。望も明日は早いんだからもう寝なさい」 ミチルはそう言うとゲルに戻って行った。


プリンスが望の肩を叩いて、もう一度二人で夜空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ