240.盗人にも三分の理 ?
「じゃあ。わざと情報を送らせたってこと?」
侵入者の取り調べ後、ジェイソンから説明があった。なんでも情報の送り先から元凶を突き止めることに成功したそうだ。
「そんなことして大丈夫だったの?」
「当たり前じゃない。勿論偽の情報よ」
「偽の情報?」 じゃあ彼らが侵入してくるのを予想していたってこと?
「この前の侵入はかなり準備してきていました。とても一度の失敗で諦めるとは思えませんでしたからね。必ずもう一度やって来ると思いましたので」 ジェイソンがそう言って肩をすくめた。
「彼らはアルハンからの工作員でした」
「アルハン?」 聞いたことのない国名に望が首を傾げた。
「モンゴルとロシアの間の高原地帯で、先住民として自治が認められた小さな独立国ですよ。人口は確か8万ぐらいだったはずです。独立小国家中では最大の規模ですね」 プリンスが説明してくれた。
「79765人です」 プリンスに先を越されたハチがどこか悔しそうに付け加えた。
現在の北半球が連邦国として一つにまとまる際に、それまで自治を認められていた先住民による独立国をどうするかと言う問題が提起されたが、結局住民の意思に任せることにされた。住民投票で連邦国の一部となった地区もあれば、従来どおり自治権を持つ独立国となることを望んだ国もあった。連邦のあちこちに散らばって密かに存在するそういった小国は確か28ほどあったはずだ。国と言っても人口数千から最大数万人しかいない町のようなものだ。全部足しても100万人にも満たない。これらの小国は連邦と条約を交わしているので犯罪人が逃げ込む、ということも滅多にない。独自の文化を保っているので観光地として栄えている国もあるが、殆どの国は連邦に比べると技術の遅れが見られ、災害の時などは連邦に頼ることも多い。共通点はどこもインヒビターを使っていないということぐらいだろう。
「そんな小国がどうしてここに侵入しようとしたんだろう?」 てっきりどこかの大企業かと思った。
「その事なんですがね」ジェイソンがちょっと困ったようにプリンスとミチルの顔を伺った。ミチルが顔を顰めて首を振った。プリンスは無表情だ。
「私は反対よ。非合法な活動をする国にどんな事情があろうとも情けをかけるべきじゃないと思うわ」
「事情?何かあるの?」 ミチルの言葉に望が尋ねた。
「盗人にも三分の理っていうからな」 いつの間にか現れたリーがそう言った。
「リー、どこに行ってたの?」 そう言えば真っ先に捕り物に向かいそうなリーがいなかったな、と気がついて望が訊いた。
「俺様は奴らの乗って来たサブマリンを捕獲してきた。小型だけど結構面白い改造型で結構てこずったぜ」
「リー、セキュリティに付いて行っただけでしょ。自分一人で捕まえたように言わないでね」 感心する望に得意そうな顔をしているリーにミチルが水を差した。
「それで、事情ってなんですか?」 気を取り直した望がジェイソンを見てもう一度訊いた。
「私から説明します」 プリンスがそう言って望を見た。
「先程言ったように彼らはモンゴルとロシアの間にある小さな高原地帯に住んでいるのですが、年々植物が育たなくなってきているそうです。温暖化のせいもあるのでしょうが、原因はそれだけでもないようです。これは近年地球上のあちらこちらで見られる現象で、政府でも研究されていますが特に高地がひどいようですね。彼らが言うには先日のマナリの件を知ってこの研究所に何か画期的な発見があったのか、或いは望に何か特別な能力があるのか、どうしても知りたかったそうです。彼らにとって国の存続がかかっていると言われました。嘘ではないと思います」
「国の存続…」
「いくらちっぽけな国でもそんなところでマナリでやったようなことをしたらミステリースポットじゃすまないわ」 ミチルがそう言ってそっぽを向いた。
「僕に何とか出来ると思う?」 望はプリンスを見て訊いた。
「多分、UOと望なら出来ると思います」プリンスは渋々と言った口調で答えた。
「それじゃあとにかく、捕まえた人達に会ってみるよ」
「そうなると思ってたわ」 ミチルが諦めたように言った。




