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235.リーの冒険

「やっぱり飛ぶってこういうことだよな、ヨタ?」 望達が高原の植物を再生させようと試している頃、リーは一人でジェットを操縦し、はるか上空を飛んでいた。上機嫌で連続ループを決めながらLCに同意を求めた。


「そのとおりです、リー」 リーのLCヨタはこういう時リーがプログラムした通りの返答をする。ちょっと物足りないが望のLCのようにはいかない。望のLCハチは、時々望に反論したり、諌めたり、一度など皮肉を言っていた。自分で考えて返事をするLCなんて、人間を相手にするのと変わらなくて、うるさい、と思う。ちょっとうらやましい気もするが。でも今のようにただ同意して欲しい時はヨタの方が良い。ハチだとこんな操縦は危ないとか、自分の方が安全に操縦できるとか言われそうだ。安全な操縦ばかりするんじゃ折角望達と離れて行動することにした意味がない。エベレストの上空まで行きたいからと言って、このジェットを1日自由にする権利を手に入れたのはただ大人しく観光するためではないのだ。折角免許をとったのだから自分で思い切り飛ばしてみたい。


「どうだ?なかなかだろう?」


「はい、なかなかです。リー」 ヨタは素直だ。


「ミチルが俺に操縦させないのは自分が操縦できないからだよな?」


「…はい」 返事に間が空いたような気がするが、気の所為に違いない。


 数時間後、青空にスパイラルする白い雲を残しながら飛び続けたリーは満足してマナリに向かった。


「なんだ、あれは?」マナリに近づいてスピードを落とし、下界を見下ろしたリーは思わず声を上げた。


「あれとはなんでしょうか?」 ヨタが真面目に聞き返した。


「あの高原だよ。今朝出た時はこんな景色じゃなかっただろ?」


「私の記録にはございません」確かにヨタに記録を命じた覚えはない。しかしハチなら望の見た物はすべて記録しているのではないだろうか?後で望に訊いてみよう。いや、今はそれどころじゃない。


 朝飛び立った時にはこの辺り一帯は灰色だった。もう少し高度が上の地域は緑の木々で覆われていたが、谷間にあるマナリの町とその周辺の高原はむき出しで緑はなかったはずだ。眼下に見える高原は見渡す限り緑に覆われていた。


「ヨタ、現在地に間違いないか?ここは本当にマナリか?」


「はい、間違いございません」


「今朝出発した町で間違いないんだな?」 


「はい、間違いございません」抑揚なくLCが答えた。ちょっとムッとしたんじゃないか、などと思えるのは機械に人間の感情を当てはめるからだとわかっているが、思わず謝ってしまいそうになった。



「望、あの一帯をすべて緑にして回ったのか? たった一日で?」 帰りのジェットの中でリーが呆れたように訊いた。ちなみにリーは今日一日で満足して、ジェットの操縦はAIに任せている。


「僕が回ったのは3か所だけだよ。だけどなんだか緑化が止まらなくなったみたいで、僕が離れた後もしばらく広がり続けたらしいんだ。不思議だよね?」 望が首を傾げている。


「不思議だよね、じゃないぜ。こっそりやるって話じゃなかったのか?これじゃ大騒ぎになるぞ」リーがプリンスを見て言った。


「思ったより強烈な効果がありましたから、仕方がありません。これは隠しておくことは無理ですね」プリンスはそう言って考え込んでいる。


「望は本当にトラブルメーカーよね。何とかごまかせないのかしら?騒ぎがやっと少し落ち着いてきたと思ったところだったのに」ミチルは望を睨んで文句を言った。


「僕がトラブルメーカー?僕は別に何もしてないと思うんだけど…絶滅しそうだからって頼まれたらしょうがないし…」 言い返そうとした望はミチルに睨まれて口を噤んだ。




「待ってましたよ、望君」 ハワイ島の研究所の発着場に着いた望達を待っていたのは目を輝かせたウィルソン所長だった。彼の手にしている器具に望は思わず顔をしかめた。


「また血を取るんじゃないでしょうね?」 ついこの間もかなり取られた。

「私はオーラなど信じてはいなかったのですが、天宮君がトリガーなのではなく、逆だ、という見方は非常に面白い。そう考えればいままで理解できなかった幾つかの事実が説明できます。その実験のために…」 結局また血を取られた。

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