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229. 白い骨

『環境科からの報告では天候の悪化は年々ひどくなっていくとのことです。これは私達にはどうしようもない問題です。多分後数千年でこの惑星は生物の居住に適さなくなるでしょう。少しずつ他の星に向かって住民を送り出して行くしかありません。特に貴方は絶対に生き延びなくては』


「でも、貴方はここから動けないではないですか」悲痛な声を出した私に友は笑った。


『私の子供達を連れて行って下さい。私はここで最後まで見守ります。心配しないで。まだ何千年もの時があるのですから』


「何千年もあるのなら私はここであなたと共にいます。私達は貴方程長寿ではないのですからここが居住に適さなくなる前にとっくに寿命が尽きます」


『それでは貴方の血筋が絶えてしまいます。それでは私達根を下ろす者と、貴方達動き回る者が理解しあうことができなくなります。もし新しい星を見つけても、そんな世界になったらどうしますか?』


友の問いに私は答えられなかった。そんな恐ろしい世界が想像できなかった。


「まだ時間はあります。私にも子供ができるでしょう。私の子供を貴方の子供と共に旅立たせます」私がそう言うと友は黙り込んだ。


『わかりました。できればたくさん子供を作るといいですね。私もそうします』 しばらくして、諦めたような、嬉しそうな声で友が言った。





「これは素晴らしい発見です」 次の日、植物研究所に呼ばれて行くと、ウィルソン所長が興奮している。それからながながと分析結果を説明し始めたが専門的すぎてどうもはっきりと理解できない。


「つまり、これは木の化石化したものではないか、ということですね?」 一緒に聞いていたプリンスが言った。


「木の化石?」 望が首を傾げた。それならそう珍しくないはずだ。


「それがわからないんですよ!木の化石、と一応仮定していますが、そうだとするとこれまでの植物とは全く違う発達系統としか思えない」 所長が嬉しそうに答えた。


「未知の植物、ということですか?」 プリンスの質問に所長が大きく頷いた。


「これまで発見されたことのない植物だというのは間違いないことです。というか植物かどうかもはっきりしない。細胞に含まれている鉱物が自然発生では有り得ないもので...」 そこからまた専門的な説明が始まってしまった。


「つまり人工的に作られた植物ってこと?」 所長の説明を遮ってミチルが訊いた。


「まあ、そうではないか、と...」 邪魔をされた所長はちょっと不満そうに答えた。


「それで、あれが望の歩いた後にお花畑が出来た理由なの?」 ミチルが重ねて訊いた。


「それはまだわかりません。それで天宮君に来ていただいて、ちょっとした実験に協力していただこうかと思いまして」所長はちらっとプリンスを伺うように見てから言った。彼はプリンスが望を研究材料にするのをひどく嫌うのを知っていた。


「実験?」 望は赤井教授の事を思い出した。また血をよこせと言われるのだろうか?


「何をすればいいの?」


「簡単な事です。 種を幾つか用意しますので、現在遮断ケースに入れてあるあれを取り出してみてください。ちなみに私達は全員既に実験済みで、誰も種に影響を与えることはできませんでした」


 そう言って所長は薄く水を引いたガラスのトレーに数種類の種を蒔いた。それから望に真っ黒な金属の箱を渡して、蓋を開けるように促した。 望が蓋を開けると中には土の中で見つけた白い骨状の物体が入っていた。


 「これを取り出すだけで良いんですか?」 望の問いに所長が大きく頷き、プリンスがちょっと眉を顰めた。ミチルは望に一歩近づいた。

 

 何だか緊張するな、と思いながら望は箱に手を入れて、そっとそれを持ち上げた。初めて持った時にも思ったが、見かけが金属のようなのに金属の冷たさが無い。不思議な感じがするな、と望が思っていると周囲で息を呑む音が聞こえた。首を上げると全員がトレーを見ていた。


 「まるで早回しイメージね」 ミチルが呟いた。トレーの上では先を競うように伸びていく植物達がいた。


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