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228. ここ掘れわんわん

 夕方、望とミチルはカリを連れて山の麓にできた丸い緑のサークルに来ていた。話を聞いたカリがどうしても連れて行って欲しいと強請ったのだ。


「それで、なにか分かった?」 望は期待を込めてカリを見た。


『うん。この下に何かあるの。何か...不思議な感じ...』


「この下?どのくらい下かなあ?」 自分で掘れるくらいなのか、ずっと下なのか。


『お母さんとミチルでは届かない』 


「そうか。じゃあ誰かに頼んで掘って貰うよ」


「ここ掘れわんわん、ね。カリは犬の系統かもね。そう言えば望への懐き方が犬っぽいし」ミチルがそう言うと、まだ犬を見たことのなかったカリがハチに問いかけたらしい。ハチがカリに犬について教えたおうだ。


『カリはまだ犬を見たことがないけど、ミチルやゴーストよりずっと賢そうなの』 



 プリンスに連絡するとすぐにウィルソン所長と一緒に掘削用ロボットを連れてやってきた。カリに大体の場所を示してもらって地面を掘り始めた。所長が丁寧に掘る様にと指示を出したので、作業は非常にゆっくりだった。掘った土や岩石を所長が慎重に調べている。そうやって1時間も掘ると、穴の深さは5メートル程になった。火成岩の下には粘土質の土があった。


「宝箱は出ないようね、カリ」 とミチルがカリに言った。


『もうすぐなの』 カリはミチルに怒りもしないで何かに集中している。


「まだ続けますか?」 掘り出された土を調べていた所長が、何もないのにがっかりしたらしく、プリンスを見て訊いた。プリンスは望を見た。望が頷くと、所長に続けるように指示した。


『あったの!』 それから10分後、カリが声を上げた。望がロボットを止めて、穴を覗き込んだが、深い穴で何も見えない。


「どうしました?」 


「カリがあったって言ってるから、僕が降りてみるよ」望がそう言うと、全員が反対した。


「望じゃ危ないわ。本当に何かあるのなら、私がとってくる方が安全よ」 ミチルはそう言って望を穴の淵から引き戻した。


「このぐらいの高さなら僕でも大丈夫だよ。大体ミチルじゃあ何を取ってくればいいのかわからないかもしれないだろ?」


「カリ、何があるっていうの?どんな形?」ミチルがカリに尋ねた。 


『カリにはわかるの』


「要するに、何かも、どんな形かもわからないのね」


『カリにはわかるの。ミチルはお馬鹿だからわからない』


「やっぱり僕が降りてみるよ」 望が慌てて口をはさんだ。


「いいえ、こうすれば問題ないわ」 ミチルはそう言うと、地面に下ろしてあった望のナップサックを掴んで穴の中に飛び込んだ。ナップサックにはカリの鉢が入っている。


『ミチルのお馬鹿、お母さん』 慌てたようなカリの声が聞こえた。


「ミチル、乱暴にしちゃ駄目だよ!」 望の叫び声にミチルが肩をすくめた。


「落としはしないわよ。さあカリ、どこにお宝があるの?」 ナップサックを地面に置いてミチルがカリに訊いた。


『ミチルのお馬鹿。そこにあるのにミチルにはわからないの』 カリの声にミチルのLCが周囲を照らした。そこにあったものを、ミチルが拾い上げた。


「これ?」


『そう。それをお母さんに渡して。カリもお母さんに返して』 


「ミチル、今梯子を下ろすから早く上がって来て」 望が穴の淵から心配そうに呼びかけた。数分後、ロボットが下した梯子を伝ってナップサックを背負ったミチルが穴から出て来た。望は急いでナップサックをミチルから取り戻して、カリの鉢を地面においた。


「カリ、大丈夫?」


『カリは大丈夫。ミチルのせいでちょっと怖かったの。でも、もう大丈夫』甘えた声で言うカリの葉っぱを撫でてやりながら望はミチルを睨んだ。


「ちょっと乱暴じゃないか。カリに傷でもついたらどうするつもり?」


「無事だったんだからいいじゃない。そんなことより、これがお宝らしいわよ。私にはガラクタにしか見えないけど」 ミチルが手に握っていたものを望に手渡した。プリンスとウィルソン所長は望の側に寄ってそれを興味深そうに見た。


「これ、なんだろう?」望は首を傾げた。それは長さ20センチほどの白い円柱形の物だった。金属のように固いが、金属の冷たさは感じられない。


「これがカリのお宝なの?骨を掘り当てるなんて本当に犬みたいね」 確かにちょっと骨に見えなくもない、と望はこっそり思った。


 



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