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226. カリの見る夢

「あれが夢、ですか?」 プログラムが終了して真っ白な部屋に戻ったリトリートを出て、地上の部屋に戻りながらプリンスがため息交じりに訊いた。


「夢の中で、僕はどこか別の場所にいるんだけど、あの景色を見ながら嵐の被害に対応しようとしていた。あそこにいる木々が周りの景色を見せてくれていたと思う」


「望は昔から変な夢を見てたものね。良く夢を見て泣いてたじゃない」


「ミチル、変なこと言わないでよ。僕は夢を見て泣いたことなんかないよ」


「あら、いつだったかなんだかすごく怖い魚が出てきて食べられそうになったって夜中に泣いてたじゃない」


「あれは…まだ5歳くらいだったろ?」文句を言ってからその夢を思い出して身震いした。確かに恐ろしい夢だった。


「まだ怖いのね」 望の様子を見てミチルが馬鹿にしたように笑った。そういえばミチルはあの時もしばらく望の顔を見る度に笑っていたっけ。思い出したら腹が立ってきた。


「ミチルは怖い夢を見たことがないの?」


「ないわね」 きっぱりと言い切られてしまった。


『お母さん、カリも夢を見たことがあるの。怖い夢も見たことがあるの』


「そうなの?」 カリの見る夢はどんな夢だろうか?訊いてみたいような気がしたが、訊いてはいけないような気がして、躊躇っているとミチルがカリを見て馬鹿にしたように言った。


「カリの見る怖い夢って、もしかしたら私に葉っぱを全部ちぎられるとか?それで泣いたんじゃない?」


『ミチルにカリの葉っぱをちぎることなんかできないの。ミチルなんか怖くないの』


「そうだよミチル、カリの葉っぱを毟ろうとしてひどい目にあった事、もう忘れたの?」


『カリはお母さんと遠くに行く夢をみるの。とても楽しい夢。時々怖い事もあるの。でもカリはとても強いから大丈夫。お母さんを守る』


「それは素敵な夢ですね、カリ」 ハチがカリの声をプリンスにも伝えていたので、プリンスがそう言うと、カリが嬉しそうに葉を震わせた。


「カリは僕と一緒にあちこち行ったものね。楽しかったね。またどこかに行こうか?」 望は昨年の世界中の都市への旅を思い出した。あの時は忙しくて大変だったけれど、カリと一緒にあちこちを見られて楽しかった。今度はもう少しゆっくりと旅してみたい。


「カリは、望とどんなところへ行った夢を見たのですか?」 プリンスが興味深そうに訊いた。


『とても遠いところ。ここじゃないの。お母さんも少し違うけど、でもお母さんだってわかったの』


「カリは望とずいぶんいろいろなところへ行きましたよね?そのどこでもないのですか?もしかしてさっきの望の夢の場所?」 考え込みながらプリンスが更に質問した。


『あそこは見た事ないの。もっと違う。違う空、違う匂い』 


「あれより違う?それってこの地球ではないってこと?」 ミチルが興味を惹かれたのか、真面目な口調で訊いた。


『地球? 地球はここ? ここじゃないの。もっと遠く』


「カリは宇宙を旅する夢をみるんだ。楽しそうだね。僕もそんな夢を見てみたいな」 望がそう言うとミチルとプリンスが何故か黙ってしまった。


『お母さんも見たい?』  


「そうだね。怖いのは見たくないけど、楽しいのなら見たいな」 


『じゃ、今度カリが見たらお母さんにも見せてあげるの』 


「カリ、自分の夢を人に見せる事なんかできないのよ」 ミチルが小さな子供に諭すように言った。


『ミチルはお馬鹿だからできない。カリは賢いからできる』


「じゃあ、今度楽しい夢を見たら僕にも見せてね、カリ」 なんだかカリとミチルの雰囲気が怪しくなってきたので望は慌てて夢の話を切り上げた。


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