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224. トリガー

「ではまず先日から行っておりました環境耐性の実験結果から申し上げます」 ウィルソン所長が眼前に実験結果のレポートを展開しながら言った。


「赤井教授と共同研究を進めております古代樹につきましては後ほど発表いたしますが、まずマナフルーツの耐性についての実験結果を報告します。マナフルーツから育った木と、その素の木の耐性の違いも含めて全種類について実験致しました」


データが次々と示されるのを眺めながら望はぼんやりと今朝の夢を思い出していた。あれは誰だったのだろうか。あの色が真っ白で緑色の髪の男は人間のようでもあり、違うようにも思えた。あそこは何処だったのだろう。何よりもあの、我が友と呼んだ存在、彼と繋がっている時の充足感…痛っ。 ミチル、なんで僕の足を踏んでるの? 怒ってミチルを見ると呆れたように前方を指さしている。



「天宮君はどう思われますか?」 そこには、何だか期待に満ちた目で所長が望を見ていた。他のメンバーも望の返答を待っているようだ。まずい。何を聞かれているのか全然わからない。


「えっと、僕ですか?」 ちらっとミチルを見ると目線で目の前のレポートを指していた。慌ててレポートを見るとマナフルーツの1代目、2代目、3代目、それぞれの実験結果が示されていた。その結果を見る限り、特に3代目からは個体差が大きくまとまった結論は出せていないようだった。この結果をどう見るか、と訊かれているのだろうか?


「これだけ個体差があるということは、育てた人に原因があるのではないかと、思いますが」 育てた環境が同じならば、後は育てた人だろう、と望は思った。


「人、ですか? 環境が同じでも、育てた人間によって苗の環境耐性に変化が出る、と?」別の研究員が訊ねた。良かった、どうやらあまり的外れな返答ではなかったようだ。


「はい。人間には辛抱強い人や、暑がり、寒がりといろいろな人がいますから、育ててた木にある程度育て親の気質が移ってしまうことはあると思います」


「暑がり、寒がり...」 呆れたような顔をしている研究員がいるが、何人かは成程、と頷いている。ウィルソン所長も頷いて考え込んでいる。


「それでは、育てた人間別に実験結果を纏めてみます」 


「では、引き続き赤井教授からの古代樹についてのレポートです。残念ながら教授は目を離せない実験中でこちらには見えていません」 所長の言葉に望、プリンス、ミチルは苦笑した。夏休み前に望から無理やり血を奪った後、教授の姿を見ていない。


 それから示されたレポートには、ある程度結果を知っていた望達をも含めて、全員が驚嘆した。


 「これによると、この木は地球上のあらゆる場所で繁殖することができることになる。いや、地球上だけではなく、もっと過酷な場所でも生きられる。しかもあり得ない速度でだ。自由に繁殖させたなら忽ち地上の他の木を駆逐してしまいかねない、危険な植物だ。急ぎ駆除するべきではないのですか?」 中年の研究員が声を上げた。


 「しかし、教授によるとこの木は自由に繁殖しないそうだ。発芽にはトリガーが必要なため、現在のところそれ程危険視する必要はないと教授は言っている。そのために5万年もの間、発芽することなく眠っていたらしい」所長が言葉を続けた。


 「トリガー?そんな馬鹿な」 数人の研究員がその意味するところに思い至り、顔色を変えた。

 

 「そのため、赤井教授はかなりの高確率でこれが人工的に作られた植物だと推察している」 所長はそう言って、腰を下ろした。


 「人工植物?一体誰がこんな植物を開発できたというんだ?」


 「いや待てよ。この木は5万年前の種から育ったのだったろう?5万年前にそんな技術があったとでもいうつもりか」 あちこちで声が上がり、会議室が喧騒に包まれた。


 「しかし、その木が発芽して、木に育ったということはトリガーが存在した、と言う事なんだな?」一人の研究員がそう言うと、全員がはっとして望を見た。 

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