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219.地下果樹園

着替えて部屋に戻った望はさっきのマザーらしい声を思い出していた。随分はっきりと聞こえた。


『マザー?聞こえる?さっきは有難う』 呼びかけてみたが返事はなかった。


『お母さん、どうしたの?』 少し眠そうな声のカリが答えた。


『カリ、寝てたの?起こしてごめんね』


『寝てないの。起きてたの、さっきマザーとお話してたの』


『マザーと?何のお話をしたの?』 


『ちょっとしかお話できなかった。なんだかすぐにどこかへ行ったの』 


『そうか。きっと僕のせいだね』


『お母さんの?』


『うんさっき僕が海で寝そうになってたから起こしてくれたんだ』


『海の中で寝てたの?』


『ちょっとだけね。マザーが起こしてくれたから助かったよ』


『海は寝たらいけないの?』 不思議そうにカリが訊いた。


『そうだね。寝て水に沈んだら危ないからね』 


『カリは水に沈んでも大丈夫』 う~ん、海水でも大丈夫かなあ?


『それで、マザーは何か言っていた?』 望は話を元に戻した。


『なんだかね、子供達が沢山大きくなって、嬉しいって』


『そうかあ。あの子達大きくなってマザーとお話しできるようになったのかな?』


『そう。カリともお話しできる。まだお馬鹿でうるさいけど、子供だから仕方ないの』カリがちょっと嫌そうに言った。うるさいのか。



「望、今良いですか?」 部屋の入り口から顔をのぞかせて、プリンスが訊いた。


「あ、プリンス。さっきは有難う。本当に命拾いしたよ」 プリンスを手で招き入れ、改めてお礼を言った。


「どういたしまして。しかし、あんなところで寝そうになるなんて、余程疲れていたのですね。望は忙しすぎます」 


「プリンス程じゃないよ。プリンスはグリーンフーズの仕事もあるのに、新会社の運営も全部任せてしまって、本当にごめんね」


「そんな心配はいりません。私は指示を出すだけですから望のように忙しくはありませんから」 


「そうかなあ?」どう考えてもプリンスの方が忙しいと思う。


「それより、今日の会議の報告なのですが、どの地下果樹園も順調です。ハチに詳しい数字は渡してあります」 グリーンフューチャーで研究、開発した新しいマナフルーツの木は成長速度こそ地上に比べて遅いものの味、栄養共に問題なく育った。新会社で、実験的に10の都市を選んで地下果樹園を運営している。まもなくもっと多くのマナフルーツを市場に出せる。


「良かった。早くみんなに食べて貰えるようになるといいね」望の言葉にプリンスが優しく頷いた。


「望のお陰です。望が居なければあの地下果樹園は出来なかったでしょう」


「僕は大したことしてないよ。場所の選定から交渉まで全部プリンスとリーがやってくれたじゃない」


「そんな事は誰にでも出来ます。ウィルソン所長が言っていました。地下に植えた木に、どう手を尽くしても実がつかなくて悩んでいたら、望が来てすぐ解決してくれたと」


「あれは、ちょっと彼等と話して何がいけないのか訊いただけだよ」 望は思い出して苦笑した。


ウィルソン所長に泣きつかれて無理に日帰りでここまできた日を。



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