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215. 地球外生物と六ツ美さん

 その日はアカのいる保護区で一晩過ごすことになっていた。 明るいうちにキャンプの設置を済ませた望達は教授の助手としてアカを中心とした広範囲の植生の撮影、目新しい植物の採取などを行った。2年前のこの辺りのイメージをどこかから手に入れた教授が、それを現在のイメージと比較して興奮している。教授の興奮に比例するように望の不安は増して行った。


「赤井教授、最初に約束していただいたようにアカの事は発表なさいませんよね?」その夜、テントの外に出したテーブルで暖かいコーヒーを飲みながら望は教授に確かめた。


「約束だからね。しかし生きている古代植物だ。この木によってどれだけの謎が解けるか、君達も興味があるだろう? それに、ここを見てご覧。動物がほとんど住めなかった砂漠が、森になり、草が生え、小動物がすんでいる。この短期間これだけしっかりした地盤を作れるなら人間が住むこともできる。地球上の砂漠の半分でも森にすることができたらどうだ?ここまでの調査では他の生態系に害を与えている様子もない。勿論その辺はもっと念入りに調査するつもりだが」


「しかし教授、アカの繁殖力は強すぎるとはお思いになりませんか?ニワウルシのような侵略的な植物と比べても比較にならない成長速度です。幸いアカは知性が高いので、僕の心配をわかってくれてこれ以上広がらないようにしてくれています。しかし、アカから種をとったり、地下茎をもらったりして他の地域に広げたら、その木がアカのように物分かりが良いとは限りません」


「その懸念はわかるが、弱肉強食は自然の摂理だと私は思っている。強いものが数を増やし、やがてもっと強いものに取って代わられるのはある程度仕方がないことだ」


「そうかもしれませんが、もし、その強いものが地球上に自然発生したものではないとしても、教授はそうおっしゃいますか?」 


「自然に発生したものではない? それはどういう意味?まさかこの木は人工的に作られたとでもいうのかい?それとも地球外から来たとでも?」教授が少しからかうように望に問いかけた。


「それは…わかりません。アカも良く覚えていないようです。ただ、僕はアカに地球上の他の木とは異質の物を感じるのです。僕のカリも他の木とは違いますが、それでもアカとは違い、地球の生物だと思えます。うまく説明できないのですが、もっとアカについてわかるまではこれ以上仲間を増やさない方が良いと感じています。でも、逆にアカの異質さを誰かに知られて、アカを利用しようとか、滅してしまおうとされるのも嫌です。それで、教授にはこっそりとアカの事を調べていただきたかったんです。研究成果として発表できない分、費用と報酬はすべて僕達の事業から出します」 望がためらいがちに説明すると、教授は驚いて望を見た。


「君は本気でこの木は地球で生まれたものではないと思ってるのか?」望が頷くと、教授はプリンスを見た。


「オルロフ君も?」 君は正気だろう、と助けを求めるように訊いた。


「私は、植物については全面的に天宮君を信頼しています。彼がそう言うなら、そうなのでしょうね」にっこり笑って答えるプリンスに、教授は、黙ってコーヒーを飲んでいるミチルを見た。ミチルは肩をすくめただけだった。


「赤井先生、俺は望やプリンスみたいに木の気持ちとかはわからないんだけど、こと木に関しては望が間違えるはずはないと思うよ。どれほどあり得なさそうでもな。こいつは昔から人間の気持ちより木の気持ちの方がわかるようなやつだから」 望達が教授と一緒に研究に励んでいるあいだ、バイクを乗り回してかなり遠くまで探検に行っていたリーは、戻って来てから静かに望達の会話を聞いていたが、やがてそう断言した。 望は不満そうな顔をしたが、ミチルはそうよね、と頷いた。


「そうか。わかった。もしこの木が地球外生命だというのなら、確かに安易に広めることなどできない。どうやってそれを調べるか、ということだが、まあ、やってみよう。君達からの資金援助は有難く受けるよ」 しばらく考え込んでいた教授は、やがて顔を上げてそう言った。


「有難うございます、教授」 望はほっとしてお礼を言った。


「そういうことなら君達は私のスポンサーというわけだね。それじゃあ、これから私の事は六ツ美と呼んでくれ。どうも赤井教授と呼ばれるのは苦手でね。変なイントネーションをつけて呼ぶ奴がいるからな」 




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