214. アカの健康診断
「アカ、久しぶりだね。今日はお客さんを連れてきたよ」慌てて教授の後を追いかけた望がアカに声をかけた。
『お母さん、嬉しい』 アカが望に答えて嬉しい気持ちを送ってきた。
「僕もアカに会えて嬉しいよ。それでね、この人は僕の先生なんだ。アカのことを知りたいって。体がどうなっているか、健康診断みたいなことをしてくれるって言うんだ。触ったり、器械で測ったりしても大丈夫?」 アカの幹に触れながら望が聞いた。
『わかった。アカは大丈夫』
「教授、どうぞ」
「そうか。有難う」 望の許可が出るまで種々の器械を周囲に並べて待っていた彼女は早速器械のスイッチを入れた。
『アカ、もし何か変な感じがしたらすぐ教えてね』 赤井教授の並べた機器の多さに心配になった望はアカに尋ねた。
『くすぐったいけど、うん、大丈夫。気持ちいいかも』
「気持ちいい?」
『なんかピリピリして、気持ちいいよ』 電気マッサージみたいなものか?
暫くの間器械のデータを読んでいた教授がだんだん難しい顔になっていく。いや、難しい顔ではなくて、考え込んでいるのか。
「天宮君、すこし幹と葉のサンプルを貰えないか訊いてみてくれないか?」
「少しって、どのくらいですか?」 望が警戒するように確かめた。
「そうだな、葉を10枚、幹の一部を、3x3センチのかけらを10枚貰えれば何とかなる」
葉はともかく、幹は結構な大きさになる。
『アカ、聞こえたよね?どう思う?無理はしないでね』
『大丈夫。アカは強いから。ちょっと待って』 アカがそう言うと、枝がぶるっと震えてすぐに葉が数枚落ちて来た。それから幹の一部が自分から剥がれて落ちた。教授が目を輝かせて葉と幹を拾い上げてサンプルケースにしまい込んだ。
「有難う。これを研究室に持ち帰ってもう少し詳しく調べるよ。とはいえ、この木がこれまで発見されたどの植物とも違うことは間違いないがね」教授はそう言いながら改めて周囲を見回した。
「ここに植えてから2年と言ったかな?」
「1年と8ヶ月くらいでしょうか」
「この辺りの木はすべてこの木の一部だね?」 教授の問に望は頷いた。
アカは目立って大きいが、辺りにはアカが伸ばした根から数十本のアカを小さくしたような木が生えていた。遠くから見ると紅葉した森のように見える。木々の間には細いせせらぎがみられ、緑の草が地面を覆っている。アチラコチラに小さな野生動物の姿も見えた。この森は遠方に見える山々まで広がっていた。
「ここが砂漠だったというのなら、この木はわずか2年足らずで砂漠を豊かな草原に変えたわけだ」教授の言葉には畏れと尊敬があった。
「そうですね」教授が向かっている方向がわかるような気がして、望はためらいがちに肯定した。
「天宮君、これがどれほど素晴らしいことか、わかるか?」
「もしこれを他の土地でも行うことができるなら、地球の砂漠化を止めることができる。それどころか陸地の25%もある砂漠を緑の大地にできるかもしれない」教授の興奮した声に望は困ったように彼女の顔を見た。




