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211. カリの面接試験

『お母さん、お帰りなさい』 家に入るとすぐにカリが声をかけて来た。昔から、カリは望が帰って来ると家に入っただけですぐわかる。ある程度の距離に入るとわかるようだ。


『カリ、カリの知らない人を連れて来たんだけど、会って貰いたいんだ。良いかい?』


『良いよ。やっつける?』 カリは好戦的な傾向がある。望は密かにミチルの影響ではないかと疑っている。ミチルには言わないが。


『駄目だよ。今度から僕が通う学校の先生なんだ。その先生がね、アカの事を知りたいんだって。僕は多分大丈夫だと思うんだけど、カリにも会って確認して貰いたいんだ。この先生が僕達の仲間かどうか』


『仲間?わかった。お馬鹿でも悪くない人なら仲間、なんだよね、お母さん?』どうやら望の教えたことをちゃんと覚えていたらしい。カリは賢い。


『そうだよ。でもカリ、仲間を馬鹿とか言っちゃいけないよ』教授にカリの言葉は聞こえないだろうが、念のためにそう注意して、自分の部屋に教授を案内した。


「教授、これがカリです」 望はそう言って日当たりの良い窓際で気持ち良さ気に葉を震わせているカリを掌で指し示した。


「カリ、僕がこれから行く学校で教えていただく先生だよ」カリにも教授を紹介している望を面白そうに見ながら赤井教授はカリに向かって挨拶した。


「赤井六ツ美です。こんにちは。宜しくね」 


『こんにちは』 カリの返事はやはり赤井教授には聞こえていない。


「それにしても綺麗な木だね?しかも見たことのない種だ。何の木なの?」食い入るようにカリを見ながら望に訊いた。


「カリは、普通のユーカリの木ですよ。A&Aに行った時苗を見つけたんです。ユーカリだからカリ」


「ユーカリ?この木がユーカリ?それはないでしょ。いくら変異種だとしてもこれは別物だわ。というか、これ本当に木?天宮君の作品じゃないのかな?天然物にはとても見えないんだけど。ちょっと触ってもいい?」 赤井教授は早口でまくし立てると、望を振り返って触る許可を求めた。いきなり触らないところは流石に植物学者。それともミチルのギンピーギンピーと言う言葉に用心深くなっているのかもしれない。


『カリ、この人が触っても良い?』 こっそりカリに訊いてみる。


『良いよ、お母さん』


「どうぞ」 カリの了承を得たので許可を出す。


「有難う。木肌も葉もツヤツヤじゃないか。う~ん、これは確かに本物のようだが、どうしたらユーカリの苗からこうなる?」 ぶつぶつ言いながらカリを撫でまわしている。その手つきは優しいが、土の中に指を入れて根まで触っている。


『くすぐったい』 カリが文句を言った。


「あの、教授、根っこはちょっと」 望が止めると、指を地面から抜いた。


「ごめんごめん。しかし、本当に木なんだなあ」改めてカリを眺めて何か感心している。


「この木が本当にユーカリの苗から育ったんだとしたら、ラキが言ってたことは本当だったんだな」


「ウィルソン所長の言っていた事?」


「君は植物に変化を促すことができるようだ、と言っていた。私は考えすぎじゃあないかと言ったんだが」 そう言ってからまたカリを見た。


「これは全く見たことのない種類の木だ。これがユーカリの苗から育ったとしたら、君の力と思うのが自然だ」


「この子については、この子自身の力です」 望はそう言って、カリを見た。


『どう、カリ? この人は仲間だと思う?アカを見せても大丈夫?』


『変な匂い』


『変な匂い?悪い匂い?』 ぎょっとして望が問いかけた。


『悪くない。ちょっと変な匂い。大丈夫。仲間。アカは大丈夫』カリの言葉に望はほっとして力を抜いた。


「教授、アカにご紹介します。僕もアカの事はよくわからなくて、何かわかれば良いと思いますので」


唐突にそう言った望に教授はカリと望を見比べた。


「成程。私はカリ君から合格を貰えたのか?」 教授は嬉しそうに笑った。




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