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211. アカとカリ

「赤井教授、あの実についてはすべての権限を天宮君に譲り、同時に情報は秘匿することになっています。ウィルソン所長が先走ってご迷惑をお掛けしたことは申し訳ございませんが...」 望の困った顔を見て助け舟を出そうとしたプリンスを教授が手を振って遮った。


「オルロフ君、そういう頭の固い態度が昔からどれだけ科学の進歩を妨げて来たか知ってるだろう?私は科学者だ。別に利益を得ようとしているわけじゃない。ただ、知らない事があったらそれを研究し、理解したいだけだ。もしその研究結果をどこにも発表するなというなら、そう約束しても良い。君達だってその実のことがすっかりわかったわけじゃないだろ?私が役に立てることがあるかもしれないと思わないのか?」 その言葉にプリンスが考え込み、望は感心して頷いた。


「あの、教授、僕は教授のおっしゃる通りだと思います。僕としてはあの実のことについてお教えしてもいいのですが」 望の言葉に身を乗り出して来る教授の顔が近くて、望は一歩下がった。


「その前に会っていただきたい友人がいるんですが?その子が良いって言ったら現在のアカの居場所をお教えします」


「君の友人?その人が私をテストするというのか?」 教授が怪訝そうな顔をした。


「テストというわけではないのですが、カリはアカと親しいので」 より一層怪訝そうな顔になる教授に望は説明しようとした。


「アカ?カリ?」


「アカというのは僕があの実から育った木に付けた名前です」


「へえ、君は木に名前をつけたのか? じゃあカリも木?」教授がどこか面白がるように訊いた。


「カリは木に擬態したギンピーギンピーのような植物ですわ」とミチルが口をはさんだ。


「ギンピーギンピー?そりゃ、危ない。あれは死ぬほど痛いというからね」


「カリはユーカリの変異種で、普通は棘などありません。とても賢い、良い子です」望が慌てて言って、ミチルをちょっと睨んだ。ミチルはまだカリの棘に刺された事を根に持っているらしい。


「賢い、良い子? 成程。ラキは君には植物の感情や、伝えたい事がわかると言っていたがどうやら本当のようだね」 嬉しそうにそう言った教授はがっちりと望の腕を掴んだ。地味に痛い。


「よし、さっそく君のカリ君に会いに行こうじゃないか」教授に言われて、プリンスとミチルを見たが、二人とも諦めたような顔で肩をすくめた。


 教授にせかされて、望の家まで戻る事になった。

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