205. それぞれの将来
「僕が決めないとプリンスが決められないの?」 どうして、と言う顔でプリンスを見た望に、プリンスが首を傾げて言った。
「同じ大学に行こうと約束したの覚えてますよね?」 そう言われた望は曖昧に頷きながら記憶を探った。言われてみればそんな約束をしたような気がするが、はっきりと思い出せない。
「覚えてるよ...あれは確か...」言い淀む望にプリンスが助け舟を出した。
「初等部1年の夏休みに将来の話をしましたよね?」
そう言われて夏休みにプリンスの家の島に遊びに行って、その時これからもずっと一緒にと約束したことを思い出した。学校もずっと一緒だよ、と話し合ったはずだ。あんな子供の頃の約束を覚えていてくれたんだ。流石に律儀な彼らしい、と望は嬉しくなった。
「勿論、覚えてるよ」今度ははっきりと頷いた。
「でも、プリンスは僕と一緒でいいの?僕は植物学を学ぼうと思っているけど、プリンスは法律とか経済とかじゃないの?」 ふと、マダムノストラダムスが見せてくれた史上最年少の連邦大統領になっているプリンスの姿を思い出した。
「法律はもう弁護士資格を取得していますし、ビジネス関係は自分で学べます。私も植物学を専攻しようと思って幾つか良さそうな学校を調べておきました。コースや特徴などの資料をハチに渡してありますから、一度目を通してください。それから決めましょう」
「望が決めないと、ミチルも決められないでしょう?」 プリンスはそう言ってミチルを見た。
「えっ、ミチルはもう決まってるって言ってたよね」 ミチルを振り向いて訊くと、ちょっと怒ったような顔で睨まれた。
「決まってはいるわよ。私は大学までは望と同じところに行くってね。忘れたの?柳家の長子は天宮家の長子が成人するまでは守役を務めるという、し、き、た、り」 ミチルは皮肉っぽく言って肩をすくめた。
「ミチル、僕のために進路を変えることないよ。好きなことをすればいい。おじさんには僕から話すよ」 望は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「別にいいわよ。私は武術以外特にやりたいこともないから」 ミチルはそっけなくそう言ってから付け加えた。
「もし私に悪いと思うんなら、できたら日本にある大学にしてちょうだい。京都か、ネオ東京なら時々家に帰って訓練できるから文句はないわ」
「うん、わかった。できればそうする」後でゆっくりとプリンスのくれた資料を読んでみよう。
「なんだ、皆植物学を専攻するのか?俺だけ仲間外れ?」 黙って聞いていたリーが不満そうに口をはさんだ。
「リーは何を専攻するの?やっぱり政治?」確か彼は外交官、とか政治家を目指していたはずだ。
「俺はもう政治関係はやめたんだ。兄貴がいるから俺は好きにしていいって親父も兄貴も言ってくれたしな」 リーの父上は政治的に難しい立場に立たされたが、今はアメリカで元気に活動している。地元では兄上が地盤を引き継いで政治家になっている。
「じゃあ、何をするの?」
「俺はほら、丈夫だろ?その才能を生かして冒険家になろうかと思うんだ」
「それ職業なの?」 ミチルが疑わし気に言った。
「冒険?」 望が目を丸くした。大学にそんなことを学ぶコースがあるのだろうか。
「ああ、潜水艇を操縦する資格とか、宇宙船パイロットの資格とかをとって、誰も行ったことのない深海に潜ったり、ちょっと観光客を乗せて月を案内する合間に、隕石群でも探検してみたり...だからそう言う資格を取れるところに行くつもりだ」
「何だか楽しそうだね」 望はそう言ったが、ミチルがどこか憐れむようにリーを見た。
「潜水艦や宇宙船がいくらすると思ってるのよ」
「それなんだけど、フューチャープランニングには、どっちもあったよな? 俺がライセンスをとったら雇ってくれるだろ?」 リーが望を見て訊いた。 ミチルに蹴飛ばされていた。




