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204. 進路

「ヤナギさんが、急にカリの言葉がわかるようになったのですか。大変興味深い」異次元研究所の所長、ダン ゴールドマンがそう言って興味深い動物でも観察するようにミチルを見た。 いつから見ていたのだろう?


「そうよね。ここに100人もの仲間が集まったことと何か関係があるかしら?」ゴールドマン所長の横で20代に見える女性科学者も興味深そうにミチルとカリを見比べている。


「何かの拍子に一時的に聞こえただけかもしれないわ。私は別にカリの声なんか聞きたいとも思わないし」 注目を集めたミチルがどこか居心地が悪そうにそう言った。ミチルは美人の割に注目されるのが苦手だ。


「ゴールドマン所長、ミズ グレイ、その辺りの研究はお任せします。望、ミチル、会議の時間です」 プリンスがそう言って二人を部屋の外に誘導しようとしたので、望は慌ててカリを回収してプリンスの後に続いた。


「今日は何の会議だっけ?」 エレベーターで上階に向かいながら望が聞いた。全く覚えがない。


「今日は別に会議の予定はないのですが、あのままではあの二人がミチルとカリの精密検査をすると言い出しそうでしたので」 プリンスがちょっといたずらっぽく笑った。


「そうなんだ。有難う、助けてくれて」また会議のことを忘れていたわけじゃなくて良かった。


「少しこれからの予定について話し合いたいと思っていたのでまるきりの嘘というわけでもありません。リーとも会議室で待ち合わせています」


「これからの予定って?」 やっぱり会議か、と思いながら望が尋ねた。


「私達も来年は高等部を終了して大学部に進みますが、仕事とのバランスも取らなくてはなりませんし、一度皆で話し合ったほうが良いと思うのです」


「卒業?」 


「望、来年卒業なのを忘れたわけじゃないわよね?」 呆然としている望を見て、呆れたようにミチルが訊いた。


「勿論、忘れるわけないじゃないか」考えていなかっただけで。


「どうだか」ミチルが疑わしそうに望を見ている。


「ミチルはどうなの?もう進路は決めた?」ごまかすようにミチルに矛先を向けてみる。


「当たり前でしょ。もうすぐ卒業よ。決まっていない人なんていないわ。望以外」 驚いている望を見てため息をつきながら付け加えた。


 プリンスが「会議室」と呼ぶこじんまりとした部屋に入るとコーヒーカップを手にしたリーが疲れたように一人掛けのソファーに座っていた。


「リー、お疲れ様。大変だった?」


「ご苦労様でした。100人近くもいると大変だったでしょう?」


「100人はそうでもなかったんだけどさ、そのパートナーズがなあ」質問攻めにあったとリーがぼやいている。


「リーは来年の進学先はもう決めた?」 仲間を求めて望がリーを見た。


「ああ、この間内定を貰ったぜ」 少し得意そうだ。


「内定?」 いつの間にそんなことをしていたのだろう。この数か月、リーもこのプロジェクトを手伝って忙しかったはずだ。


「望、言ったでしょ。もう年末よ。殆どの学生は内定を貰っているわ」ソファーに腰を下ろしながらミチルが言った。


「望は植物学を学ぶと決めたのでしたよね?」プリンスが言葉をはさんだ。


「そのつもりだけど…プリンスも、もう内定もらってるんだよね?」情けない顔で尋ねる望にプリンスは安心させるように首を横に振った。


「私はまだ申し込みをしていません」 思いがけないプリンスの返答に望はほっとして、思わず微笑んだ。どうやら進路を決めていなかったのは自分だけではなかったらしい。


「望、プリンスはどこでも決めればすぐに内定が貰えるんだから自分と同じだと思ったら大間違いよ」 望の安心した顔を見て、ミチルが警告するように言った。


「望もどこにでも行けますよ。ただ、もうそろそろはっきり決めた方が良いと思います。望が決めてくれないと、私も決められないので」 それを話し合いたかった、とプリンスが言った。

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