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203.カリVSミチル

「もうすぐ?」


「もうすぐって何が?」 望が問いかけるが、もうマザーはそこにはいないようだった。


「どうしたの、望?」全員が退出するまで外で見送っていたミチルがいつの間にか望の横に立っていた。


「ああ、ミチル、見送り有難う」


「そんな事より、何がもうすぐなの?」 


「わからないよ。マザーがそう言ったような気がしたんだけど」 そう言って首をかしげる望にため息をついてミチルは辺りを見渡し、カリを見つけた。


「また木に化けてるのね」 


『ミチルのお馬鹿』


「ミチル、化けてるなんて言わないでよ」 一人と一本が同時に反撃した。その瞬間、ミチルが変な顔をした。


「望、私を馬鹿って言った?」 


「ミチル、カリの声が聞こえたの?」怒っているというよりは不思議そうなミチルに望は思わず訊いてしまった。 訊いてからしまった、と思ったがもう遅い。


「カリ、私を馬鹿って呼んだわね」 カリに向かって歩み寄るミチルを慌てて止めようとするが間に合わない。


『ミチルのお馬鹿、お馬鹿』 カリが調子に乗って歌うように言っている。


「まだ言ってる!」 カリに触ろうとしたミチルの手を漸く追いついた望が掴んだ。


「離しなさい。別に何もしないわよ」 ミチルが望の手を振り払って睨んだ。


「怒ってカリに触っちゃ駄目だよ。ミチルが危ないから」カリは結構怖いのだ。


「私が危ない?」 ミチルが驚き、それから何を馬鹿なことを、と言う顔をした。


『カリは強いの』 カリがちょっと得意そうに言った。


「カリ、止めなさい。ミチルもカリをからかうからいけないんだよ」


「ミチルはカリの言葉がわかるのですね。羨ましいな」 途中から聞いていたプリンスが望が困っているのを見かねたのか言葉をはさんだ。


「わかるっていうか、馬鹿って何回か聞こえたような気がしただけだけど」 ミチルも改めてカリの言葉が聞こえたことに思い至り複雑な顔をした。嬉しいような、しかし相手がカリだけに喜びたくないような気もする。


「カリ、もう一度ミチルに話しかけてくれる?」 『悪口は駄目だよ』


『わかったの。ミチル、カリはとても賢いね』 カリの言葉を聞いて、ため息をつきながらミチルに訊いた。

「聞こえた?」


「カリはとても賢いね?」 ミチルが聞こえた言葉を反芻するように答えた。


『ミチルにもやっとわかったの』 ミチルの言葉を聞いたカリが得意そうにしている。ミチルは自分の言った言葉の内容に思い至ってムッとした。


「ずる賢い、でしょ。本当に可愛くないわね」 


『カリは可愛い。お母さんがいつもそう言っている。ミチルは可愛くない。怖い。リーがいつもそう言ってる』 


「なんですって!望、本当なの?」 ミチルが怖い顔で望を見てから、リーがいないかと辺りを見回している。リーは全員をホテルまで見送っているはずで、ここにはいないが直に戻って来るだろう。何でミチルにカリの言葉が聞こえるようになったんだ、と望は頭を抱えた。



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