202. 101の芽がでました
「強く握りすぎです。力を緩めて、もう少し優しくしてあげて」 望はそう言いながら、確かニューヨークから来た青年の手とその中の実にそっと触れた。ほんの少し力を貸してあげる。青年からゆっくりとエネルギーが流れて実に吸収されていくのがわかった。もうこれで大丈夫。
「その調子です。できればその子に芽を出して欲しいと話かけてみてください」 望はそういうと彼から離れて辺りを見回した。プリンスやドミニクは勿論、ギリアンとウィルソン所長が手に持っている実からも青々とした芽が出ていた。まだ芽が出ていない人を見つけて少し手助けをしているが、誰もが驚くほど順調に芽を出すことに成功していた。この場所のせいなのか、それとも彼らの遺伝子なのか。どうやら全員大丈夫そうだと思った望は、ダグラスに抱かれたままのサクラへと近づいた。サクラの分までマザーの実がなかったので、彼女が持っているのは望がカリに頼んで作って貰ったカリの子分の種だ。サクラはその種を握って何やらじっとしている。難しかっただろうか。望は手助けしようか、と迷っているとサクラがにまっと笑った。次の瞬間小さな種から勢いよく芽が出てあっという間に10センチ程になった。
『こんにちは』小さな声がした。さすがカリの種だ。どうやらもう話せるらしい。
「「こんにちは」」 サクラと望が同時に返事した。ダグラスが驚いたように娘と望を見比べた。二人がお互いに挨拶をしたと思ったようだ。サクラは嬉しそうに手の中の芽を見ている。
「この芽はもう話せるようで、僕達に挨拶してくれました」 望はそう言ってダグラスを見た。疑われるかと思ったが、そんな様子は見られない。さっき信じると言ったのは本気だったようだ。
「サクラさん、この子にお名前をつけてあげたらどうかな?」 望はサクラの頭を撫でながら言った。
「おなまえ...イチゴ!」サクラがちょっと考えてから言った。
「サクラ、苺が大好きだから」 ダグラスが苦笑している。
『いちご? いちご!』 苗は満足そうだ。
1時間程で全員の実から芽が出た。サクラのように10センチ近く伸びた芽もあれば、やっと葉先を見せただけの実もあったが、全員満足そうに手の中を見ている。
「おめでとうございます。無事に発芽させることができましたね。発芽してしまえば、普通の苗と同じように太陽と水で大きくなっていきますが、毎日貴方のエネルギーを少し分けてあげることで、成長が早くなるはずです。その時話かけてみて下さい。きっと意思の疎通が出来るようになります。それがはっきりとした言葉として聞こえるか、感情として感じるかは木によって違うかもしれませんが、貴方に聞く意思さえあれば、必ず木の感じていることはわかります」
「この苗は持って帰って良いの?」 マリア コルティナが期待するように訊いた。
「はい。できれば連れて帰って身近に植えていただきたいと思っています」 望の返答にマリアだけではなく多くの人達が嬉しそうに歓声をあげた。しかし、数人が困ったような顔をした。
「僕はニューヨークシティの地下にあるアパート住まいなんだ。とても木を育てられる環境じゃないよ。かわいそうだ」 さっき望が手助けをした青年が、芽を出した実を大事そうに見ながら悲しそうに言った。数人が同じような環境らしく、自分たちも無理だと言った。全員絶望的な表情だ。
「私はここの植物研究所で所長をしているラキ ウィルソンと申します。皆さんが思われるより、木はとても強いですし、環境に順応することができます。ここの植物研究所ではマナフルーツを地下で育てています。勿論そのためには準備が必要ですが、皆さんに育てる意思がおありなら、必要なものはこちらで提供します」 ウィルソン所長がそう言うと、皆本当に嬉しそうな顔になった。良かった。
その後は植物研究所で用意した植木鉢に苗を入れて貰い、ウィルソン所長から苗を元気に育てるための細かい注意を受けて今日は解散となった。
『マザー、これで良かったの?』 望はそっとマザーに話しかけてみた。返答はたまにしかないが。
『ええ、有難う。もうすぐ』




