201. 新しい仲間達と発芽の試み
「私もここを見て不思議な気持ちになった。すべてが少しずつ現実の世界とは違うのに、それがあるべき形に戻ったようにも思える。ずっとここにいたいと思える」 ダグラスはそう言って辺りを見回した。かなりの人達がこちらに向かっていた。
「サクラさんは木の気持ちがわかるようです。もう少し大きくなったら木と話せるようになるかもしれませんよ」 望の言葉にダグラスはサクラと望を見た。
「君は木と話せるのかい?」
「はい。信じていただけるかどうかわかりませんが、子供の頃から何となく木の感情がわかりました。あるきっかけで自分の木を育てると、その子と話せるようになりました」 本当は他の木とも話せるが、今の所それはあまり人には言わないようにしている。
「信じるよ。君を見ていると不思議な感じがする。もし君が木の精だと言っても信じられるような気がする」
「僕は木の精ではありませんが、サクラさんはまるで桜の木の精のようですね」
望がそう言ってサクラを見ると、サクラは銀色に光る瞳で望に笑いかけた。彼女の赤毛はふわふわとしてピンク色に近く、その色合いは本当に桜の花のようだった。
「望、そろそろ皆さんが戻って来るようですよ」 いつの間にかプリンスが立っていた。
「プリンス、いつ来たの?全然気が付かなかったよ」 プリンスだけではなく、ドミニク、ギリアン、ウィルソン所長もいた。
「最初からいましたけれど、望の邪魔になっては良くないと思いましたので研究室にいました」 プリンスはそう言って一見田舎家のように見える木の家を示した。
「なかなか説得力のあるスピーチだったよ」 ギリアンの声に望は恥ずかしそうに目をそらした。
「聞いてたんですか?やだなあ」
「望が木の精だと言われたら僕も信じますよ」
「プリンスまで、からかうのはやめてよ」
数分後、全員が再び望の周囲に戻ってきた。どことなく興奮しているような空気に望が微笑んだ。
「もう一度お聞きしますね。ここに来て、どう思われますか?」 望がもう一度尋ねた。
「初めて来たような気がしない」
「見たことのない景色なのに凄く落ち着く」
「懐かしい」 誰もが口々にそんな感想を話した。
「私はミスターアマミヤの仮説を信じられる」 そう言い切る人までいた。何人かが頷いている。
「有難うございます。実は少しでも私の話に可能性があると思って戴けるのなら実験に付き合っていただきたいと思うのです」望はそう言って木の陰からマザーの実を出した。それぞれの実は柔らかい紙で包まれ、名前が書いてあった。望、プリンス、ドミニク、ギリアン、それにウィルソン所長が手分けして名前を読み上げ、それぞれの実を手渡した。
サクラ以外の全員が一個ずつ実を手に持ったところで、他の人が持っている実を見て不満そうにしているサクラに、望は小さな木の実を渡した。他の人が持っている実の4分の1もない小さな実だが、サクラの小さな手にはちょうど良い大きさだった。
「サクラさんはこれを持ってね」 望に渡された実を握って、サクラは満足したように笑った。
「これは僕の個展で皆さんが木から落とした実です。さっきも申し上げたように、これらここで、この木に生った実です。その実から芽を出せないか、皆さんと一緒に試してみたいと思います」
そんな事ができるのか、というように人々がざわめいた。
「先程申し上げましたように、ここは何故かこの木がある異次元に近いと感じます。その原因などについてはまだ研究中ですが、皆さんが少しでも可能性を信じてくださるなら、やってみていただけますか?」
望の言葉に全員が頷いた。熱心に同意する者、面白そうに頷くもの、半信半疑で、まあ試してみようか、という者…全員が同意した。
「では、お手元の実を手の中にそっと包んで、体の中のエネルギーをゆっくりその実に流し込むようにして下さい。その時、その実から芽が出て、伸びていくところを思って下さい。できれば大きくなってどんな木になって欲しいかも描いてみて下さい」




