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200. サクラ

 マザーを模した七色の葉をつける樹の下で望は目を閉じて座っていた。ここにいると微かだがマザーを感じる。それは望の心を満たし、望にこの世界をより愛しいものに感じさせる。


『お母さん、沢山来たね』他の木に紛れているカリが言った。


『うん。僕は皆いい人たちだと思ったけど、カリはどう思った?』


『ちょっとお馬鹿な子もいるけど、暖かい』 そうか、カリには暖かく感じられるのか。


『お話できそうな人はいなかった?』


『お話はできなかった。まだ小さいからわからないみたい。お馬鹿じゃないけど、小さい』


「小さい?」子供は一人しか参加していない。あの子か。


「あの、すいません」 カリが言っている子を探してみようかと目を開けた望の前に、ほっそりと優しげな顔をした若い男が立っていた。そして彼と手をつないで立っているのはヨチヨチ歩きの女の子だった。望が探しに行こうと思っていた子供に違いない。立ち上がった望よりも男の目線が上にあって少し驚いた。その優しげな顔立ちのせいか自分と同じぐらいの大きさだと無意識に思っていたようだ。


「お邪魔してすいません。私はニコラス モリといいます。これは娘のサクラです」そう言って男は小さな女の子を示した。


「サクラさん、はじめまして。僕はノゾムです」望はしゃがんで彼女と目線を合わせた。驚いたのかちょっと父親の体に隠れそうにしてから、望を見て、両手を伸ばした。


「サクラ、三才、だっこ」 思わず伸ばされた手を掴んだ望に彼女は自己紹介をして、だっこを要求した。望はどうしたらいいのかわからなくてニコラスを見た。


「サクラ!すみません。いつもはかなりの人見知りなんですが...サクラ、どうしたの?」  


「だっこ」 もう一度要求された望は、ニコラスに了解を求めてからサクラを抱き上げた。驚くほど軽かった。3才ってこんなに小さいのかな。


 望に抱き上げられたサクラは頭上の葉に手を伸ばしている。どうやら葉っぱに触ってみたかっただけらしい。ここの植物は触るとその感触があるが、摘んだりはできない。望はサクラを持ち上げて葉に触らせてあげた。

 「...」 葉に触れたサクラは、首を傾げると、こんどはその木の後ろにある小さな木を指さした。どうやらそこに行けと言っているらしい。成程。


 『カリ、さっき言っていたのはこの子?』 そう、その小さい木はカリだった。


 『そう。小さい子』


 望はサクラを抱いたままカリに近づいて、カリの前にそっとおろした。サクラは最後の一歩を進んでカリの葉に触れた。引っ張ろうとしたら止めようと思って見ていたが、ただ触れただけだった。


 『カリ、どう?』


 『気持ちいい。お母さんほどじゃないけど、気持ちいい。カリの事好きだって』


 「サクラ、もういいだろう。こっちにおいで」 ニコラスはサクラを抱き上げて望に向き直った。


 望と同じ高さになったサクラが、望の顔を見てニコッと笑った。サクラはふわふわした赤毛で、薄いグレーの瞳は時々銀色に見えた。可愛い子だ。


 「さっきの君の話を聞いて、私はサクラが君の言う異世界のDNAを持って生まれたんじゃないかと思ったんだ。サクラは生まれてすぐに植物、特に木に特別な愛着を見せて、私達には時折彼女が木と会話している様に見えた。花などもサクラの部屋に置くと本当にきれいに咲くんだよ」


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