199. 勧誘
「どう思ったかって?」
「木も、草花も、動物もこの地球上のものじゃないよね?」
「でも、なんだかすごく懐かしい」
望の問いかけに皆が口々に話し始めた。しばらくそれを聞いていた望が微笑んで、口を開いた。
「ここは僕が子供の頃から良く夢に見る世界なんです。この地球上のようですが、少し違う。そこでは植物と人間がパートナーのような関係で仲良く暮らしています。植物は人間に食物を供給し、人間は植物に感謝し、その意見を尊重する。そんな世界を夢に見ました。今回の個展の木々はこれまでの夢からとったものです。そして、この木はそんな知性のある木々達の親、マザーと呼ばれていました」 ここまで話して、望は周囲を見た。
人々は望の話に聞き入っている。呆れた顔や馬鹿にする様子は誰にも見られなかった。
「普通の人にこんな話をすると、想像力のたくましい子供が大人になり切れていない、と思われるでしょうが、僕にはこの世界が実在すると思えるのです。でも、別の星ではない。時々見る月や空の星から、同じ地球で間違いないと思います。ですから、僕はここが異次元の世界だと、結論しました」
望はもう一度皆の顔を見回した。呆気にとられたような顔をしている人もいるが、納得したような顔で頷く人もいる。殆どの人は何かを求めるような、夢見るような顔をしていた。
「ある事件があって、僕は自分が数万年前にその異次元の世界から転移してきた人々の子孫ではないかと考え始めました。そして、夢の世界で作っていた方法で、現実に果物を創ってみました。それがマナフルーツです。マナフルーツの成功で、僕は自分の考えに確信を持ちました。異次元研究所を設立したのはそのためです。それをこの場所にしたのには、ある理由からここに僕の求める次元に近い何かがある様に思えたからです。
そんな時、僕がリトリートに創ったマザーの木に実が生ったのです。その実が、今回皆様が触って、木から落としたものです。リトリートに創った木は勿論張りぼてにホロイメージをのせただけです。しかし、あの実は、鑑定によると、本物の木の実でした。」
今度はざわめきがおこった。
「ホロイメージの木に本物の実が生った?いくら何でもそんな事があるのか?」 中年の男が疑わしそうに言った。何人かが同意して頷いた。
「本当なら面白いじゃない」興奮した様子で若い女性が言っている。
そんな人々を暫く見ていた望がもう一度口を開いた。誰もが口を噤んで望を見た。
「僕が何故このような話を皆さんにしているのかと言いますと、あの実を落とすことのできた皆さんは僕と同じように異次元から来た人達の子孫であり、そのDNAが強く出ていると思うからです」
「荒唐無稽な話だと思われるでしょうが、できれば、僕の話を頭の片隅に置いて、暫くこの世界を探検していただけないでしょうか? 僕はしばらくここにいますので、探検された後、もし僕の話に関心を持たれたら、こちらに戻って来て下さい」
再びざわめき始めた人々にそう言って草原の先にある湖を示した。




